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昼休みにトイレから戻ると見慣れたパーカーのフードが目につく。
何も考えずにフードを引っ張る。
「おぇっ。」
首が絞まったのか顔をしかめて振り返る駿の顔があった。
「あれ?太一かと思った。」
思った言葉をそのまま口にする。
ブレザーの下にいつもパーカーを着ているのは俺が知る限りでは太一位だった。
それにいつも太一が来ているパーカーと同じ色…。
よく分からないキャラクターまで一緒な事に気が付く。
「これ後輩ちゃんが貸してくれたの。なんか寒気するって言ったらその場で脱いで貸してくれたの。優しいよね。」
袖の部分を鼻に押し当て匂いを嗅ぐ素振りをする駿に苛立ちを感じる。
苛立ち…?
湧いた感情に疑問を感じながら気付かなかったフリをする。
「寒気するなら俺のジャージも貸してやろう。」
そう言って駿の肩かにジャージをかける。
かけた瞬間に太一の香りが鼻をくすぐる。
甘ったるい香水の香りなんかじゃなく太一の温かい香り。
顔が緩んだ気がして顔に力を入れる。
「何その百面相。」
一部始終を見られていた駿に言われ曖昧に答えることしかできない。
「じゃあ、これ返しておいて。お礼言ってたって。」
帰りのホームルームが終わると駿は先程まで袖を通していたパーカーを脱ぎ俺に渡してきた。
部活で会うのだからそうなるだろう。
教室から駿が出ていったのを確認してから太一のパーカーに袖を通す。
意外にぴったりだな。
まだかすかに駿の温もりが残っているようで気持ちが悪い。
太一の香りだけでなく駿の香りもする。
香り位移るか…。
着たばかりのパーカーを脱ぎ鞄と一緒に小脇に抱えた。
既に一回戦目は終えていたのか部員は少なくなっていた。
椅子の隅に座っている太一に向かってパーカーを投げつける。
ブレザーも着ずにシャツ一枚でいる姿は見ている方が寒々しい。
「駿がありがとうってさ。」
自分が思っているよりもそっけない声になってしまった。
太一は渡されたパーカーを受け取るなりすぐに袖を通す。
「あっ、なんか駿先輩の匂いがする。」
太一の声に駿の匂いをなんで知っているのかと思う気持ちがよぎる。
いやいや、さっきから思考がおかしい。
太一が俺に好意を寄せていて困っているはずなのに俺がさっきから考えているのは間違いなく嫉妬と言われるものだろう。
そんなんじゃ太一の事が好きみたいじゃないか。
俺は女の子が好きなんだ。
優しくて甘い香りがして柔らかい…。
自分に言い訳をしているように感じてため息が漏れる。
これは自分の事が好きだと言ってくれる奴が他に気を取られて面白くないだけだ。
二回戦目のババ抜きも見事に敗北した。
俺にババが回ってくると何回シャッフルしてもジョーカーを避けてカードを引かれていく。
肩を落としながら残りの部員が来るのを待つ。
先に勝ち抜いていた太一も部室の隅で残っている。
「マジかーー!!!」
見事に全敗した。
すまなそうにしながらも先に帰って行く部員に手を振る。
太一はおかしそうにケラケラと笑っている。
俺はムッとした顔を作ったままトランプを片付けた。
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