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『今から出てこれる?』
駿からの誘いのメッセージは久しぶりだった。
呼び出しの理由は想像できたから尚更行きたくなかった。
駿に一発位殴られたらスッキリするかな。
そんな事を考えて家を出る用意をする。
近くの公園に着くと部活帰りの駿の姿があった。
「ひでぇ顔。」
駿に言われて首をかしげる。
俺に傷つく資格はない。
傷付かないために太一を傷つけてまで逃げ出したんだ。
傷付くわけがない。
「俺の事気持ち悪いと思った?」
自分の気持ちを話した後に駿が聞いてくる。
俺は大きく首を振る。
少しでも駿を不安にさせたくなかった。
嘘はなかった。
驚きこそはあれども俺の知っている駿に変わりはない。
駿も笑って頷く。
「俺も正直不安だよ。相手や周りにどう思われるかなんて。でも、お前は俺の事、気持ち悪いとも何とも思わないんだろ?それだけで十分じゃね?全員に納得して祝福してもらう必要なんてないんだよ。お前は誰の気持ちを一番大切にしたいの?」
駿の言葉をかみしめるように頭の中で繰り返す。
誰が一番大切なのか…。
何を無駄な事を考えていたのだろう…。
太一の笑った顔が好きだった。
泣かせた奴がいるのなら守ってやりたかった。
何を間違えてんだ…。
溢れる涙が止まらずしゃっくりを上げながら泣く。
「本当バカだよな。」
呆れたような駿の声に涙がこみ上げる。
もっと罵ってほしかった。
太一が傷ついた分、俺の事も傷つけてほしかった。
呼吸が落ち着くまで駿は傍にいてくれた。
余計な事を考えるのを止めたら色々な事が見えてくる。
「駿。お前太一と二人で放課後残った時、太一にキスした?」
今なら何でも許せそうな気がして聞きにくかった事を尋ねる。
「はぁ?」少し怒ったような声で駿が聞き返し、その日の事を思い返すように上を向く。
「あぁ!コヨリだよ!コヨリ!!」
確か駿の妹の名前…。
「ティッシュを細くねじって後輩ちゃんの鼻にツッコんだの。」
駿の言葉に呆気にとられる。
「…あぁ、こよりね…。」
少しでも駿を疑っていた自分が恥ずかしい。
「駿。五千円貸して。」
思い立って駿に金をせびる。
スマホだけしか持って出てこなかったのだ。
「何に使うんだよ…。」
と渋々財布からお金を渡してくれる。
お金を受け取ると駿に別れを告げる。
時間ももう遅い。
暗い夜道、息の続く限り走り続けた。
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