卒業編

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卒業編

 「せんぱーい。もう一回三年生やりましょうよー!!今からでも先生にお願いすれば間に合いますからぁー。」 冗談のように言いながらも目が笑っていな太一の言葉に苦笑いする。 太一と付き合って一年以上が経った。 その間ケンカもしたし二人で出かけたりたりもしたが俺の受験勉強で会えない時間が増えた。 大学受験が終わってからも俺たちの関係は変わらなかった。 二人で過ごしてセックスもして一緒の時間を共有してきた。 お互い口にはしなかったが最後の時間を惜しむように肌を合わせた。 時期部長も太一に無事決まった。 太一は思い出を残すかのように部室で何度も体を求めてきた。 残される太一の気持ちを考えると拒むことができず受け入れた。  「先輩第二ボタンください。」 卒業式が終わり泣きはらした顔で太一が言う。 ブレザーの第二ボタンでもいいものなのか悩みながらもボタンを外して太一に渡す。 太一は大事そうに握りしめては涙をこぼす。 一生の別れでもなければ俺たちが別れるわけでもないのに大げさだなと感じ呆れたように笑う。 太一の希望で駿にツーショット写真を撮ってもらう。 泣きはらした太一の顔は残念な仕上がりになっていた。 太一と過ごした二年間の学校生活。 至る所に太一との思い出がある。 太一はそれを一人で噛みしめながら一年間過ごさないといけないと思うと太一が泣くのも大げさではないような気がしてくる。  最後に思い出の場所めぐりがしたいと太一が言うので生徒の少ない校内に戻りダラダラと歩く。 一度だけ訪れた一年生の時の太一の教室。 恥ずかしいからやめろと言っても懲りずに昼休み押しかけてきた俺の教室。 誰にも言えないようなことをした教職員トイレ。 思い出を話しながら歩く廊下は短く、最終的には部室にたどり着く。 鍵を隠し持っていたのか太一が部室の鍵を開ける。 誰もいない部室。 早く帰りたいが為に入った部活で大切な人に出会った奇跡。 もうこの場所には来ないのかと思うと鼻がジンと熱くなる。 誤魔化そうと太一に背中を向ける。 ぶつかるような衝撃が背中に走り腕を回される。 「俺、先輩いないと寂しくて死んじゃいます…。」 涙声に言われお腹に回された太一の手をポンポンと撫でる。 確かそんな動物いたよな…。 ハムスターかウサギか…。 余計なことを考えていないと俺も泣きだしそうだった。 涙を堪えながら太一の方に振り返る。 顔を見られないように、太一の顔を胸に埋めるように抱きしめる。 なんと言えば太一を笑わせることができるのか一年以上付き合っていても分からない。 太一の言う通り留年でもして同級生として卒業して進学できたらどんなに楽しかった事か…。 たかが一年がこんなに長く遠いものだとは思わなかった。  腰に回された太一の腕に一瞬力が入り解放される。 顔を上げた太一の顔は目が腫れていて別人のようだった。 泣き顔の太一を見ると俺まで涙腺が緩む。 悟られないように口元だけで笑ってみせる。 太一も無理して笑う。 「セックスしましょう!」 感動の別れだというのに太一らしい言葉に本当の笑いが漏れる。
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