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帰りのHRが終わり職員室で部室の鍵を受け取り部室に向かう。
一番早くに来たと思っていたのに部室の前には太一が座り込んでいた。
「珍しく早いじゃん。一番に来たなら鍵取りに行けよ。」
部室の鍵を開けながら言う。
「あんま職員室行きたくないんすよねー。」
ヘヘっと笑いながらお尻をはたきながら立ち上がる太一。
素行が悪いと言う話を聞いたことはないのに職員室には近寄りたくないものなのか。
まぁ、交番の前を通るときに悪いことをしていなくても緊張してしまいう気持ちなら分からなくもない。
毎日のように部室に来ているのに扉を開くと埃っぽい匂いが鼻をつく。
鞄を机に置いてから窓を開ける。
少し冷たい風が部室に入り込んでくる。
昨日一緒に帰った時も気まずい空気にはならなかった。
二人でいても今までと同じようにくだらない話をして笑っていられた。
ただ太一の顔を見ないと少し緊張する。
いつもと同じヘラヘラと笑っていてくれるのであれば緊張もしないですむが、もし真剣に思いを伝えられたら今度こそ逃げようがない気がしていた。
「あっ、太一。今日駿と何話してたんだよ。」
今思い出したかのように口にするが、ずっと気になっていたことだ。
「えっ、気になります??もしかして、やきもちっすか??」
わざと茶化すように言うので「ちがう!!!」と慌てて答える。
もうこれ以上聞いても答えてくれそうもないので聞き出すのを諦める。
俺だけのけ者みたいだ。
数分もすると部員がぞろぞろと部室には言ってくる。
太一は部員の何人かに声をかけているようだったが内容までは分からない。
いつも通りトランプを配り時計回りに引いていく。
なん週かすると「あーがり!!」と手持ちの札を机に放り椅子から立ち上がる太一。
「じゃぁ、お先っすー。」
いち早く鞄を取り部室を出ていく太一。
いつもは勝っても負けても俺が残っている時には一緒に残ってくれることが多かったのに…。
太一の気持ちを断ったのは自分なのだから寂しがるのは図々しいだろう。
軽くため息をついてババ抜きを続けた。
また負けた…。
部員が全員いなくなった部室で一人机にもたれかかるように突っ伏す。
いつもやっているスマホのゲームもメンテナンス中で時間をつぶすことができない。
遠くから聞こえてくる運動部の声を聞いていると太一に告白された事が蘇ってくる。
断らなければ良かったのかな?
今の寂しさを埋めるためだけにそんな風に考えてしまうのはよくない。
太一とは話も合うし一緒にいて安心もする。
でもそれは友達で後輩だからだ。
恋人になって手を繋いでデートしてキスをするなんて考えられない。
グルグルと同じような事を考えていると部室の扉が開く音がする。
誰か忘れ物か?
頭を持ち上げるのも面倒で寝たふりをする。
部室に入ってきた足音と甘ったるい香り。
足音が近づいてきたかと思うとギュッと顔に腕を回され抱きしめられる。
えっ????誰??
背中には柔らかいものが当たる。
頭がパニックになりながらも寝たふりを続けるべきか、今起きたフリをするか考える。
「せーんぱい。」
耳元で聞こえた声で飛び起きる。
「てめっ!!ばかっ!!」
思考がまとまらず言葉が単調になる。
振り向くとそこにはいつも通りニコニコとした太一の姿があった。
「帰ったんじゃなかったのかよ。」
まだ高鳴る胸を押さえながら太一に尋ねる。
「これ買ってきてたんすよ。」
そう言って太一はシャツの上に着たパーカーの下から何かを取り出す。
「本物みたいでした?」
イタズラに笑う太一の手元には二つの中華まん。
太一は一つを俺に差し出す。
太一の服の中から出てきた物というのであまり気は進まないが受け取る。
「ちょっと熱かったんすよ!頑張りを認めてくださいよ!」
口に中華まんを頬張りながら太一が嬉しそうに笑う。
俺もなんだか馬鹿らしくなって一緒に笑いながら中華まんを口にした。
「ってか、その匂い何?くさい。」
中華まんを食べた後に部室に広がる甘ったるい香りを嗅ぎながら口にする。
「あー、これ。クラスの女子に作戦の相談したら香水かけられたんす。女子力が上がるって。」
女子にどこまで相談しているかなんて怖くて聞けなかった。
「俺。その香り好きじゃない。」
いつもの太一の匂いじゃなくて落ち着かない。
そう言うと太一を喜ばせてしまいそうでそっけなく答える。
「せっかくつけてもらったのに…。」
名残惜しそうにつけられた場所であろう手首をクンクンと自分で嗅いでいる。
「落としてきてよ。」
自分でも言い過ぎだと思った。
でもなんだか太一が知らない人になったかのように感じて嫌だった。
しぶしぶと太一は部室を出て行った。
何してんだろ…。
自分の勝手な思い込みで太一を振り回している自分が嫌だった。
「洗ってきましたよー。」
部室に戻ってきた太一はまだ少し甘い女性物の香水の香りがする。
おもしろくない。
なんでこんな感情になるのか分からないがイライラとしているのが分かる。
「なんでこんなことしたの?」
思ったより冷たい声になってしまった。
太一も悪ふざけが過ぎたと思ったのか少し顔に緊張感が走っている。
「…だって。吉平先輩…。巨乳が好きだって駿先輩が…。」
俯きながらモジモジ白状する太一に今日の駿との会話を思い返す。
確かに好きなタイプといわれてグラビアモデルを指したが決して巨乳が好きなわけではない。
いや、確かにおっぱいは好きだ。
そこは否定できない。
考えが逸れていっていることに気が付き目の前の太一に目をやる。
「アホか。」
そう言って太一の頭をグリグリと乱暴に撫でまわす。
太一もホッとしたのか顔をあげてさっきまでと同じ笑顔を向けてくる。
「多分Dカップ位はありましたよ!!ドキドキしました!?」
無邪気に笑う太一に呆れながらつられて笑う。
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