7限の夢

　先生の眠くなるような声だけが教室にこだまする。気が付くともう3時だ。最後の7限目。今日の授業もあと10分で終わる。今日は金曜日。疲れのせいか、不人気の物理の授業のせいか、クラスメイト達は頭が留守になっているようだ。隣のヤツにいたっては机に突っ伏したまま。初夏の風が僕達の頬をほろりと拭う。眠くなるのもよくわかる。授業はもちろん聞いていなかった。寝ているんじゃない。ぼんやりと考えていた。

　率直に言おう。彼女と上手くいっていない気がするのだ。ここ１週間メールしてない。記録更新だ。通知が来て、もしかしてって思うと公式アカウントで、というのを何周もしている。思い当たる節はいくつばかりある。1つは彼女が軽音部のメンバーで(もちろん男子もいる)中華街に行ったときに、プロフィールを「不倫は文化」にかえたこと。もう1つは「一緒に帰らない？」ってメールして「今日はごめん」っていう返信を既読スルーしたこと。なんで「不倫は文化」なんかにしたのかって？倫理の先生のせいだ。先生が授業中ふざけてこんなこと言ってクラスが笑いの渦につつまれた。それが忘れられなくて数人の男子で一斉に変えた。よくある事だ。でもそんな事情を知るはずもない。彼女と同じ軽音のメンバーから「それあいつ気にしてたよ」とさらって言われたのもつい先日のこと。 そして一昨日、久々に部活が休みになったので(最近なんか微妙とは思っていたけど勇気をだして)メールしてみた。でも断られた。やっぱり断られた。何が引き金になったのか自分でもよく分からないが既読スルーした。それ以降メールでも、学校でもすれ違っても、話さなくなった。　
　思えば最初から距離は遠かった。メールは3日に１回、デートは月に1回、好きって言われたのも最初の1回。友達には「はやと」って下の名前で呼んでるのに当の僕には1回も言ってくれない。ツーショットも1枚もない。彼女とは去年同じクラスだったが変わってしまった。そのせいで階も変わった。彼女が同じ軽音の男子達がいる隣の教室へよく行っているのも知っいる。自分といる時よりもはるかに楽しそうだ。メールだって僕よりしている男はいっぱいいる。くっそ。もうわかんないや。
　彼女の夢を最近見るようになった。もちろん心がすれ違ってる夢。実は正夢じゃないっかって怖くなってネットで調べた。こう書いてあった。「彼女と喧嘩するなどの上手くいっていない夢...これは逆夢であることが多いです。実際はとてもいい関係が築けている証拠です気にしないでくださいね」って、嘘つけ。読んでいる人を傷つけないためだろ。それが分かるから逆になんか腹立つ。
　付き合って2ヶ月、もう限界が来たかなって思う方が楽な気がする。「僕は不器用です。ごめんなさい。あなたを幸せに出来ませんでした。」って。そして僕よりかっこよくて、頭も良くて、足の速さは負けないけど、話していて楽しい、軽音のアイツと付き合っちゃえよ。
　嫌いなら嫌いって言って欲しい。今の状況が1番嫌だ。初めての彼女だから大切にしようって思ったけどもう終わりだ。トーク履歴も消しておこう。通知も切っとこう。ブロックはしなくても非表示ぐらいはしておこう。デートで行った遊園地のチケットも捨ててしまおう...。

「お前いつまで寝てんだよ。もうホームルームおわったぞ。」さっきまで寝ていたやつがいつの間にか起きていた。どうやら少し寝ていたらしい。疲れがたまっているようだ。理由はもちろん分かっている。僕はスマホをポッケにしまって教室を早々と出た。

　「今日は久しぶりにデートして帰らない？なんか食べたーい笑」スマホのディスプレイに通知が届いているのを僕が気づかないのは言うまでもない。