午前3時の三時草

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「すごい、綺麗……」 わたしは綺麗に輝く黄色い花を見て、心からそう思った。これなら姉の神様が見たくなっても仕方がない。 真夜中、午前3時の前にその人と待ち合わせて屋敷の裏の山に登った。 そして、午前3時ちょうど、辺り一面が黄色で埋め尽くされた。 「だろう? わたしはこれを見るために毎年ここに来ているんだよ」 その人は得意そうにそう言った。 わたしは、不思議なことに、その人に引きこもっていることを相談しようと思った。 今でも理由はわからないけれど、もしかしたら三時草のせいなのかもしれない。 「あの、聞いてもらっていいですか? 実は、わたし、今引きこもっていて…」 あっという間に時間が過ぎた。 いつの間にか、朝日が昇ろうとしている。 「君、あとはひとりで帰れるかな?」 「はい。でも、どうしてですか?」 「君とは、ここでお別れなんだよ。久しぶりに人と話して面白かった。さようなら」 その人が言い終わると、その人の背後から朝日が透けてきた。いや、その人がどんどん透明になっているんだ。 「……さようなら」 わたしは涙をこらえてそう言った。 それからわたしは高校卒業資格をとって、大学に進んだ。専攻は植物だ。 今でも、不思議に思うことがある。 あの人は、何日かあるお盆のうち、どうしてあの日だとわかっていたのか。 昔からあの地域に住んでいたわたしの両親や祖父母も知らない神話をどうして知っていたのか。 どうして、最後に透けていって消えたのか。 もしかしたら、あの人は。 お盆の時期になると毎年思い出し、毎年考える。 でも、言葉にはしない。 言葉にすると、あの思い出が消えてしまいそうだから。汚れてしまいそうだから。 午前3時の三時草。 わたしは一生忘れない。
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