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わたしがその人と出会ったのは、丑三つ時にちょうどなったくらいの頃だった。
わたしはその人のことをほとんど知らない。
年はわたしより上だろうけど、名前も知らないし、どこから来たのかも知らない。
長く綺麗な緑の黒髪と、涼やかな眼、そして不思議な雰囲気を持つ女性だったことは間違いない。
わたしは不登校で引きこもりの高校生だった。
外に出るのは夜中だけという暮らしを去年からずっと続けている。理由は聞かないでほしい。
そしてある日の夜中、肝試しをするときにしか近づかないような幽霊屋敷の前で、その人と出会った。
白いシャツに黒いロングスカートを履いていたからだろうか。最初は幽霊だと思ってしまった。
「君は三時草を知っている?」
ウグイスみたいな声でその人は言った。
わたしはわたしに話しかけていたのだと気づかなかったが、しばらくしてこの辺りにはわたしとその人しかいなかったのだと気づいた。
「わたしですか?」
「そう。ツルナ科ベルゲランツス属の多肉植物だよ」
「…知りません」
「その植物の花は、午後3時に咲くんだよ。
だから、三時草と呼ばれている」
「そうなんですか」
その時は、面白いことを聞いた、と考えた。
しかし、家に帰らなければコンビニで買ったアイスが溶けてしまうので、
「わたし、そろそろ行きますね」
と、わたしはその人に言った。
「君、明日もここに来てみないか?
面白い話を聞かせてあげるよ」
その人は言った。
わたしは、好奇心が疼いたのか、
「はい」
と言った。
次の日の真夜中。
「ふふ、君、また来たんだね」
「そっちがまた来いって言ったんじゃないですか」
わたしは言い返す。
「まあ、それはともかく、面白い話を聞かせてあげよう」
「何ですか?」
「それはね…」
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