世界の中心で愛を叫びたかった

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 そんな現実逃避をしたところで、現実は変わらない。それは百年前から、いや紀元前から変わっていない。  美祈は担当編集者に電話しなければならなかった。  あーやだな、怒られたくないな。なんとか現実をねじ曲げられないかと試してみたが、多分変わってない。  渋々スマホで電話の履歴を見てみる。日に五度、一週間前からなので三十五回。なんだ担当編集者はストーカーだったのか。  仕方ない、そんなに私が恋しいならこっちから少しは声を聴かせてあげないとね。  コール音が鳴った瞬間、編集の声が聞こえた。 『みのりさん!? 生きてたんですか!?』  担当編集者、名を新木という三十代男性。いつもは穏やかで柔らかい物腰で美祈的には好感をもてたはずだった。 「は、はい、まあ、なんとか……」 『どうして電話出てくれなかったんですか! メールも何回送ったと思ってるんですか!』 「しゅ、しゅびません……」  普段は優しい新木、仕事になるとメガネの奥から獣が現れる。  獣から身を守るため、なんとか相手を逆撫でしないように謝る戦法。恐れで声が高くなって普段の倍噛み噛み。美祈の昔の悩みは噛むことが多いことだった。 『締切近いんですから、しっかりしてください……それで、原稿はできてるんですか?』 「は、はい頭の中に……」 『出来てないじゃないですか!!』 「うひぃ」  今のはわざとらしかったかなと思いつつ、ビクビクする。 『どうしても無理なら、先に伸ばすこともできます……最悪発売延期なんてことにならなければいいので』 「了解しましたー……」 『それじゃあ、進捗があれば連絡してください』  そう言って新木は電話を切った。  美祈はスマホに向かって下を出してやった。腹いせだこんちくしょう。  締切目前。さすがに発売延期なんて愚行を犯したくはない美祈はその夜を久しぶりの休肝日とし、焼き鳥を温めて食べた。締切を目の前にして食べる焼き鳥は、人生の味がした。  あ、でも、朝と昼に飲んでたから休肝日じゃないのか、と書いてる途中で思ったのであった。
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