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なので美祈はんー、と言ってその場をはぐらかした。少ない友人には悪いと思ったが、また一緒にゲームしようねという念を送っておくことにする。
「やっぱ彼氏にフラれたから?」
「げふっ! ちょ、え、なんで知ってんの」
「え、まじでフラれたの?」
そうか、そうくるか。なるほど。バレてしまっては仕方ない。相談しよう。薄志弱行な私、軽い女なんて思われないかしら。
だいたいナナコの口調にからかいのニュアンスが含まれていたことも気づけなかった美祈も悪い。仕方ない。
「まあ実は、はい」
「まっじかーおい。なんて言ってフラれたん」
「えー」
多少渋った美祈だが、根負けし口を割った。元から口を閉ざす気もなかったようなペースで金魚みたく口をパクパク動かし美祈に起こった全ての不幸を語った。さながら戦場を語るおじいちゃんのようだ。
そうしている間にも列は進み、いよいよ次は美祈たちの番になった。
「とりあえず後で詳しく聞くわ。気晴らしにコッテコテのやつ食おうぜ!」
「いやコテコテは……」
美祈がそこまで太らない所以として、まず最初にラーメンを頻繁に食べないことにある。その次にコテコテのやつは好みじゃないことが挙げられる。と、自分で言っている。
自分の口で注文をとる形ではなく、券を買うやつだった。コミュ障の美祈にはありがたい話しだ。
「あたしはコッテコテの豚骨がおすすめなんだけどな〜」
ナナコの脂ギッシュなお誘いは丁重に却下し、初心者向けと書いてあった醤油にした。チャーシュー多めの大盛りで。太らない所以はなんだったかな。無論だがラーメン屋に来る時点で塩分なんて気にしていない。
ナナコの話によると、以前テレビでも紹介されていた都内でもかなり有名なところらしい。今日は割と空いているほうらしい。
自分はテレビに紹介される前から知ってたけどねぇなんて自慢話を聞いているうちに、はいお待ち! という唾でも飛んできそうな声とともに醤油漬けにされた麺が目の前に差し出された。
差し出されたからには食さねばならない、いくら大盛りでも塩分過多でもなんのその、それを乗り越えてこそ人生ってもんだ!
箸とレンゲを武装し、まずはスープを啜る。味香りが共に一瞬にして顔全体をおおったような感覚。そして美祈の好きな味、これはハマるやつだと直感的に悟った。
既にお察しかもしれないが、美祈はラーメン大好きである。豚骨も割と好きだがやはり一番は醤油。しかしラーメンと聞いて頭の中に彷彿とするのは、体重がいきなり増えた時のこと。
あれはあれで悪夢、どのくらい増えたのかは美祈だけの秘密としても、ラーメンの恐ろしさはすぐにわかった。食べてもあまり太らないのにラーメンは太るのはなぜだろう。
一心に麺を啜る美祈を見てナナコは言う。
「だから言ったろ? 美味いって」
「ナナコ様〜ずっと崇めまする〜」
口に含んだままなので少し汚い。
麺は全て胃に詰め込んだ。チャーシューもだ。美祈はそれでも止まらない。そこにあるものを貪り尽くすまで、止まらない。
「やめとけ、そんなことをすればどうなるかわかってるんだろ」
「……」
「ハハッ、まるでいじめられっ子みたいに口が固いな、チーズでも口に詰められたか?」
懸命に汁を飲む美祈にナナコは続ける。
「若さってやつは、恐ろしいな……」
その瞬間、美祈はスープを飲み干した。
何かキャラに入り込んでいるナナコを無視していた美祈だが、結局ナナコも豚骨スープを飲み干していた。そっちの方がやばいだろ。
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