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醤油と豚骨を摂取した二人は並んでいる人たちに席を譲り店を出た。
「さてさて、どこ行く?」
「んー、なんか飲めるところがいい」
「じゃあうち来るか?」
夏も終わりに近づくこの頃、小学生時代からお家大好きだった美祈が行きたいところなんて室内くらいだ。
砂利が敷かれた駐車場から車を出して、来た時とは違う道を行く。ナナコの家は美祈の家とは反対方向。これは帰りも送ってもらうほかない。
赤信号でも突っ切っていくぜ! なんて言いつつも黄色になった瞬間からスピードを緩めるナナコは見ていて面白い。
そうしてビルとビルの間を駆け巡ること数十分。いつの間にかうたた寝していた美祈は、カメラの連写する音で眠から目覚めた。口を開け唾を垂らして寝ている姿をネットに挙げられたら社会的に死んでしまうのでやめていただきたい。
ナナコの住む家は風情ただよう、本音を言えばボロさが目立つ二階建ての一軒家。実家だ。両親とも仲良くなったのだが、ナナコの親孝行ぶりがすごいことを話で聞いた。キャラと本性の違い、これがアイデンティティの拡散ってやつか。
リビングにいる両親二人に挨拶をし、二階にあるナナコの自室に向かう。これまた割と綺麗にされていて、本当に自分と同じ作家なのかわからなくなる。
部屋の構成として、ゲーミングPCと本棚、テレビゲームが六割を占め、冷蔵庫とその他ベッドなどが部屋を占領している。やはり美祈の部屋とは違い、綺麗だ。
美祈の部屋もナナコと大差ないが、部屋の構成一部としてビールの缶が散らばっていたりする。こまめに片付けているがほぼ毎日飲むので缶が歩いていってしまうらしい。
「さて、スマッシュシスターズするか!」
「うぃ」
それから二時間、叩いて殴ったりして相手を退場させる凶悪なゲームをやり込んだ。美祈もナナコもそうだが、食べたあとに寝転がりながらこんなことをしていたらいずれ腹に蓄えが出来そうだ。
人の腹というものはすぐに食べ物を消化してしまうもので、それに加え二人はそれなりに食いしん坊なのである。特にナナコ。必ず何かを食べながら仕事やゲームをする。
ナナコがそんなだからか、美祈の近くには必ずおやつが常備されているも同じ。そんな誘惑があったらすぐに負けてしまうのが美祈らしいところ。
ちょうど三時を過ぎたころ、その誘惑が頭角を表し始め、美祈はパリパリした食感のじゃがいもを食した。いやいや、元はじゃがいもだから実質カロリーゼロだし? そう嘯いて言ってみても罪悪感は拭えなかった。
さらにはバームクーヘンやら菓子パンが出てきたから美祈は食欲に屈するほかなかった。美祈の好物はパン類である。
気づけば皿に乗せられた分は全て食べ終えていた。恐るべし好物。体重計にも当分乗れなさそうだ。
四時間ほどぶっ続けでスマッシュし続けたので休憩することになった。その極限の集中力を原稿へ注ぎたいのにできない、これがジレンマ。
休憩がてら飲むことにした。
「コーラうめぇ」
コーラを。
「コカコーラゼロにしてもカロリーは変わらないからな、現実逃避すんなよ」
なぜかいきなり現実を叩きつけてこられた美祈は思わず吹き出しそうになった。
「時に美祈殿」
「な、なんでございましょう」
「貴殿とボーイフレンドとのお話をお聞かせ願うでござる」
将軍キャラなのにどうしてボーイフレンドなのかと思ったが何も言わないことにした。代わりにボーイフレンドと何がどうなって、というのを詳しく話した。詳しいことは、美祈と親友の秘密。
全てを話し終えた美祈は今日一日で摂取した分のカロリーを消費しきり、げっそりとした顔をしている。
「美祈……今日は飲もうぜ」
「帰ってゲームしながらね」
ゲームしながら通話して、飲む。そんな企みを二人は悪い顔をして話し合った。
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