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第2話
第2話
ラジオの生放送の仕事は、時間の拘束こそやたらと長いけれど、楽しくて大好きな時間だ。
僕みたいなまだやっと名前が認識され始めたくらいの駆け出しミュージシャンにとっては、がっつり爪痕残してさらに暴れるためにも、ほんとはどう思われてるか知るためにも、すごく大事な場所だ。
楽しい仲間と、ばかばかしいメールを読んで、大好きな音楽をかけて、好きなことを喋る。
今日もどのメールを読もうか、どの曲をかけようか、放送前に最終打ち合わせをしていると、僕の幼稚園からの友達で、ほとんどすべての楽曲製作をこなすタマこと玉井直人が、空調のガンガンに効いた部屋で、アイスコーヒーを飲んでるにもかかわらず、汗をかきながら力説をはじめた。
「あの子、双子なんじゃないかな。それですべて説明がつくんだよ。」
タマは、今年のバレンタインの日、夜中にコンビニで炭酸飲料を買ったとき、その炭酸よりバチバチと運命の火花が散るのを感じたらしい。
『今日はバレンタインなので、もしお嫌いじゃなければどうぞ』
とチロルチョコをくれたコンビニ店員A子さんがその相手。
そんなことできゅんきゅんしてるからいい年してチェリーなんだよ。情けねーな。
どうせ余ってたんだろ、チョコレート。
あまりにもタマがかわいいかわいいと騒ぐから、僕とは高校からの同級生で、チャライケメンのベーシスト、ポチこと越智裕貴も入れて3人で査定にいったこともある。
必要もないのにわざわざコンビニのレジ近くのATMでお金を下ろすふりをし、かわいい度合いを確かめた。
まぁ、かわいくなくはないよね。
そんな結論だった。
かわいくなくはない、と二重否定していたポチも、コンビニ店員A子さんが、いつもお釣りをくれるときに片手を下に添えて両手で触ってくれるから、ピッタリ小銭があっても絶対札で出すしプリペイドカードがあっても忘れた演技をかますと、かなり引くエピソードを話していた。
こいつ、彼女いるくせに。
背が高くて、若くて、小顔で、イケてるやつは、彼女がいても他の女を吟味していいという特例でもあるのだろうか。
それでこそバンドマンだろなんて理屈は僕は認めないからな。
ズルいぞポチ。
優しいコンビニ店員A子さん。
もうめんどくさいから、僕とタマとポチの間では、略してやさしこちゃんと呼んで目撃情報を提供しあってるけども、よもやたったひとつのチロルチョコや、お釣りの渡し方がこんなに男どもを狂わせてるとは知るよしもないだろう。
かくいう僕も、レコーディングで煮詰まりに煮詰まって、ダークアメーバみたいになってしまった明け方の出来事は甘酸っぱくこっそり永久保存している。
エナジードリンクをドリンクをレジ袋に入れる直前、
『んー…ちょっと…待っててくださいねっ』
とパタパタ走って…
またすぐにパタパタ戻ってきて…
『ちょっとぬるい気がして、冷え冷えの方にしますね』
と笑ってくれた。
さらに自動ドアから出る間際、“ありがとうございました”じゃなくて
『お仕事行ってらっしゃい』
と声をかけてくれたんだ。
僕だけのために。
膝から崩れ落ちそうになったその特別エピソードは、タマとポチには絶対秘密。
僕だけのやさしこちゃんエピソードとして大事に大事にしまってある。
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