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第4話
第4話
冷え冷えエナジードリンクからの『お仕事いってらっしゃい』を繰り出してきたやさしこちゃんの本名は
[ほそかわ]さん
だ。
名前をチェックしてたなんてことは、タマとポチに言うと気持ち悪がられそうだけど、胸に[ほそかわ]という名札をつけているのは、あの不自然なATM調査の時に確認済みだ。
細くて、かわいい、ほそかわさん。
嘘みたいなほんとの話。
そんな名前なら忘れるわけがない。
今日はレジで、ミュージシャンだか売れない役者だか、とにかくチャラい見た目のバイトくんに何か指導をしていた。
『いらっしゃいませ』
と期待通りのハスキーなエロボで、下心100%の俺に挨拶したあと、チャラバイトくんに小声で
『レジはやっとくから、ごはん食べて休憩とってきちゃっていいよ』
と声をかけた。
店内の見渡せるところには僕と、ほそかわさん、二人だけ。
いつ行くの、今でしょ。
微妙に古いよ。
アイスコーヒーのカップを2つ持ってレジに行く。
あと、レジ横においてあったグミの新フレーバーゆず味。
ゆずとかホントどうでもいいんだけど。
『298円です』
「あれ、カード忘れてきた…じゃあ300円で」
『はい。2円のお返しです。…ありがとうございましたっ』
さーわーらーれーたー♪♪
柔らかい指、ピンクの爪が貝殻みたいにキラキラしてて、小さな手はあったかかった。
ポチ、作戦パクったよごめんね。
レジのすぐ横のコーヒーマシンでコーヒーを淹れながら、呼吸を整え、いざ。
「あの!」
『はいっ』
突然話しかけられて声がひっくり返ってしまって、恥ずかしそうに喉を触るほそかわさん 。
……かわいー。
「いきなり変なこと聞きますけど、あちこちのお店にいませんか?」
『えっ?』
「赤坂、有楽町、関内、新高円寺…で少なくとも見かけた気がして、そんなにバイト掛け持ちするのかなとか不思議で…。余計なことですみません」
『え…すごい、よくわかりましたね。ふふ…わたしバイトじゃなくて、本社の社員で、あちこち行くのが仕事なんです。』
「あ、それであちこちで見るんですね。」
……無言……
2つ目のカップにコーヒーを淹れ始める。
もうちょっと会話がんばれないのが、僕のダメなとこだ。
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