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目を覚ますと車はもう別荘のあるとある山中に来ていて、自分の顔を覗き込む眞木さんの顔が思ったより近くて驚いた。 面白げに顔を眺められていたたまれない。 眞木さんは俺が起きたことに気が付くと目を細めた。 「着いたよ。」 案内するからと真木さんは車から降りた。 慌てて後を追うと木々に囲まれた一軒家があった。 別荘のイメージより簡素に見える建物は周りに何もなくただひっそりと山の中に建っている。 それが少し真木さんの絵のイメージに近くてもう一度あたりを見回した。 「いいところだろう?」 眞木さんは言った。 「はい。」 答えると、眞木さんはケラケラと笑った。 「俺のことはもう怖くはない?」 あまりに軽い調子で聞かれたので一瞬何を言っているか分からなかった。 ギクシャクと体を動かす。 「そんなことは……。」 出た声は不必要に上ずっていて、まるで人とのコミュニケーションになれて無いのがきっとすぐ分かってしまう。 だから、自分は周りから駄目だと言われてしまうのだ。 もっと堂々として男らしく、猫背を直して普通に接しなくてはいけない。 そう思えば思う程、いつもいつもうまくいかなかった。 「よっこいしょ。」 眞木さんが近づいたことに気が付かなかった。 ひょいと自分を俵担ぎにして眞木さんは歩きはじめる。 ちょっとかあっとか言葉にならない発音が口からもれる。 「中入って絵みようか。それからモデルをしてくれると嬉しいんだけど。」 ごめんね。と眞木さんは付け加えた。 彼と居ると大体眞木さんばかり話している気がする。 そして眞木さんばかり状況が良く分かってるみたいな口ぶりだった。 「色と匂いがね。」 歩きながら眞木さんは言った。 玄関は運転手をしてくれた幼馴染の人がドアを開けてくれていた。 こんな風に担がれていて恥ずかしい。 でも眞木さんは全く気にした風でもなくそのまま建物に入る。 「こう、君に重なって見える色と匂いが変わったから。」 自分を抱えたまま室内を移動する眞木さんは言う。 「オーラみたいな?」 思い浮かんだのは漫画やゲームで出てきたそんなイメージだった。 「まさか。活字を見たって匂いがしたり踊り出すんだから、感情だとかエネルギーは関係ないと思うよ。」 「踊る…ですか?」 全くイメージがわかなかった。 「普通は踊らないみたいだね。看板とか見てると踊り出すよ。くねくねーっと。」 だから、俺別に心が見えるとか訳わかんないこと言わないから大丈夫だよ。いつもより幾分か低くて落ち着いた声で眞木さんは言った。 充分訳は分からなかった。 逆に眞木さんの言うことで理解できることの方が初めて話してから少なかったように感じる。 「着いたよ。」 一枚の扉の前で眞木さんは自分のことを下ろした。 それから静かに扉を開けた。 分厚いカーテンが閉められているのかその部屋は廊下に比べても薄暗い。 眞木さんが部屋の奥まで進んでカーテンを開けた。 そこはこの前に入った眞木さんの部屋よりもずっと沢山の絵が無造作に置いてあった。 棚から溢れたキャンバスは立てかけられていてそれがいく枚もいく枚もある。 まるで部屋全体が一枚の絵画の様に色で溢れている。 「……すごい。」 思わず感嘆の声をもらした。 「好きなの見ていいよ。」 そこに置いてあった簡素な椅子に座って眞木さんは言う。 本当に勝手に触っていいのだろうか。真意を探りたくてもう一度見る。 「好きなだけ見ていいし、欲しいものがあれば持って帰ればいい。」 何でこの人は単なる一ファンである自分にここまで良くしてくれるのかが分からなかった。 前回あった時には共感覚だと言っていた。 でもそもそもそれが何なのか意味があって言ったことなのかは良く分からない。 考えても馬鹿なあたまではよく分からないのだ。 「その代わり、明日からモデルをしてほしいんだけど。」 どの絵から見ようか悩んでいると眞木さんは自分に声をかけた。 その言葉が今までで一番意味が分からないものだったかもしれない。 了
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