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<23>
まるで、何もかも見透かされているかのよう。小百合のベッドのすぐ横に、少女はじっと佇んでいる。
いつからそこにいたのか、どうやって此処まで来たのか――あるいは空間を超えて、壁をすり抜けてその場にいるとでもいうのか。
窓から現れた姫子とかいう存在も異質だったが、今明るい場所でこうして見れば桜はより“異端”な存在と思えてなかなかった。それは日本人形のような彼女の容姿と和装姿もあるだろうが、なんとなくそれだけではないような気もしているのである。
そうだ。――人間ではない、ナニカ。
アルルネシアと彼女は、何処かが似ている。
「それでいいって、何?」
震える声で、小百合は問う。
「まるで何もかも、答えが出ているとでも言いたげじゃない。……何もわかんないくせに。私がどれだけ苦しんでるか、全然分かろうとしないくせに!」
「そうですね。私に貴女の気持ちは分からないでしょう」
にべもなく返してくる、桜。
「分からないのが当たり前なんですよ、人の気持ちなんて。何故なら貴女は貴女以外の何かになることはできず、私は私以外の何者でもない。自分の気持ちが本当の意味で理解できるのはいつだって自分自身だけです。その本人が口にした言葉でさえ、言葉に変えた途端嘘や飾りが混ざって真実とは遠くなる。……だから私は誰に対しても言わないのです。“あなたの気持ちがわかります”なんてことは、けして。そんなものは綺麗事ですから」
最初に出会った夜よりも、まるで悟りを開いたような声だと小百合は思った。いや、お釈迦様どころかお坊さんの説法ですら、まともに聞いたことのない小百合だけれど。あくまでそれは、なんとなく、の印象でしかないのだけれど。
桜もまた、あの時と違って何かの答えを携えてそこにいる。ろくに知りもしない相手だというのに、何故だか小百合にはそう思えてならなかったのである。
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