接近

3/25
前へ
/542ページ
次へ
* 驚いた。 開いていた教室のドアから中に入ろうとすると、まだ彼が本を読んでいたから。 放課後のこの時間。 いつもなら、教室には誰もいないはずなのに。 思わず、手に持つ紙に力が入る。 クシャッと小さく音を立てたのが失敗だった。 「…終わった?」 初めて彼の視界に、私が映った。 確かに今、彼─── 神田拓哉(かんだたくや)くんは私の方を見ている。 「白野さん?」 そしてまた、ありえないことが目の前で起こっていた。 白野未央(しろのみお)。 これが私の名前。 つまり今、神田くんは─── 私の名前を呼んだ。 これも初めてで、まさか覚えられているとは思っていなくて。 なぜなら彼は、一匹狼のような人だから。
/542ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2029人が本棚に入れています
本棚に追加