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いや、と憶測を進めようとする頭を振る。それよりも皇帝だ。一体なぜこうも早く交戦を決めたのだろうか。数々の実戦経験を経てきた副隊長という立場であるが故にコリネリにはそれがわからなかった。
普通、同盟国であっても即日加勢する事はない。余程の勝算がない限りは数日を情報収集と準備に費やす。共倒れになっては元も子もないからだ。ましてやウィランドンは元から因縁のある国、同盟を結んだのもごく最近だ。この場合救う事より自国が損害を被らないように立ち回る事に重きを置くのが定石である。
「陛下のご決断の根拠は」
尋ねれば、青年兵士は困ったように眉を下げた。
「それが……ただ『デニジリア軍を撤退させよ』としか……」
「何だと? 理由も伝えずに行けと言うのか」
それはあまりに、横暴ではないか。
「隊長らが総督に掛け合いましたが、要領を得ないようでして」
「クソッ、どうせ国家機密だとか何とか理由をこじつけて伏せているんだろう。──大臣、一応お伺いしますが、この数日で何か通達などはありましたか」
「いや、このところは君も知っての通り籠りきりだったからな。他から耳に入れる暇もない。通達も、あれば君だって目にしているはずだ」
「その通りです。大臣でさえ話が届かないという事は、陛下自身と側近だけが理由を知っているのか……待てよ、フンクル国防大臣は流石に知らされているだろうな。おい、そっちはもう当たってみたのか?」
「え、あ、はい、そのようです。しかし総督を介さずに問い合わせるのは難しいようで、秘書に取次を頼んだが色よい返事はなかったとの事です」
こんな時、あの人がいれば。コリネリは脳裏に漆黒を思い浮かべ歯噛みした。彼なら大臣にも正面を切って申し立てをしただろうし、それが出来た。
「隊長がいらっしゃれば……」
あわや口に出たかと思えば、青年兵士が自分の口を覆い恐縮していた。思わず知らずこぼしてしまったらしい。彼の言う「隊長」が自分でない事など、コリネリ自身が一番よくわかっている。
「も、申し訳ありません!」
色んな意味でまずい発言をしてしまったと青褪める青年を、コリネリは「いい」と制止する。
「俺もそう思っていたところだ」
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