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それから先は、また平凡な生き方をした。それなりの学校生活を送り、それなりに青春というものを肌に感じ、小学校、中学校、高校と卒業した。最も薄っぺらく輝いていた時代がそれだ。 そして世界が22世紀に突入した時、俺は防大──防衛大学校に入学した。 自衛隊に特別憧れがあったわけではない。ただ、自衛隊なら何もかも国の税金で賄って貰える上に給料まで出る。それが動機だ。早くに保護者を亡くし、祖父母に育てられた俺に4年分の学費を捻出する経済力はなかった。 そこで出会ったのだ。 “彼女”と── ◇◇◇ 「ね、食堂ってどっち?」 昼休憩、昼食にしようと考えていた時だ。突然話しかけられ、俺は遅れて振り向いた。その先にいたのは制服姿の女。学年識別章は付けていない。という事は、俺と同じ新入生だ。 「食堂?」 入校式からもう1か月になる。今の時期に食堂の位置で迷う者はいない。聞き返すと、話しかけてきた女は少々はにかみながら頷く。 「方向音痴で……なかなか覚えられないの」 春に亡くなった祖母も方向音痴で、どこへ行くにも祖父がついていた。不思議だが、身内を重ねると妙に親近感が湧く。俺は怪訝な顔を見せる事なく答えた。 「向こうに見える角を右に曲がって、真っ直ぐ……」 「右に曲がって真っ直ぐね! ありがと」 眩しい笑顔を見せた彼女はどこかで見たような顔だった。何となく見覚えがある。はていつ見たのだろうか。入校式で見かけたのかも知れない、と記憶を探っていれば、「そうだ!」と手を打つ音がした。 「一緒に食堂行こうよ」 「は?」 「ご飯これからでしょ? お昼休み始まったばっかりだし」 「や、そうだけど……何で俺が一緒に行く事になるんだよ」 「いいじゃない、同じ場所に行くんだから。どうせなら2人で食べた方が美味しいでしょ」 この頃、俺は女性に対する若干の苦手意識を持っていた。中学、高校で色恋沙汰によく巻き込まれたのが原因なのだが、それはどうでもいい。とにかく、そういうわけで俺は彼女ともあまり関わりたくなかった。 が、あまりに押しが強い。もっともらしい断る理由のないこちらは圧倒的に不利だ。抵抗虚しく、その女は俺を引き摺って行った。
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