3242人が本棚に入れています
本棚に追加
/407ページ
ガタリ。
バルトリスが座っている椅子が音を立てた。
「諦めたって……お前……本気で言ってんのか」
「ああ」
唇で弧を描いたまま答える。バルトリスの眉が険しく寄せられた。
「一度除隊されれば、もし再入隊出来たとしても二度と元の地位には戻れない。皇帝さえ死んじまえば、お前はお飾りの皇后になって一生閉じ込められるんだ。相手はΩ嫌いの皇子様だぞ? さっさとαの女の側室でも迎えて世継を産ませるに決まってる。お前がどんな扱いを受けるかは目に見えてるだろうが!」
捲し立てるように言う彼に、リューシは首を振った。
「わかってる。でも、無駄だ」
「そんな事言ったってお前……!」
なおも食い下がろうとするのを遮り、冷淡に言い放つ。
「神様相手にはどうしようもない」
テーブルを挟んで勢いよく胸倉を掴まれる。ひと口も飲んでいないグァリがこぼれた。黄金色が木目に黒く染みをつくる。
「俺が……っ……俺がどんなに……!」
言葉を詰まらせる悪友の手をゆっくり外す。あっさりテーブルの上に落ちた無骨な手がギリリと握り締められた。
「もう……帰るわ。急に呼び止めて悪かったな」
リューシの目の前に硬貨が投げ出される。きっちり2人分。
バルトリスはそのまま店を出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!