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「ルバルア……帝国……?」 少女が首を傾げる。 知らなくて当然だ。彼女はこの世界の者ではない。姿を見れば直ぐにわかる。彼女が身に付けているのは、いわゆるセーラー服というもの。そしてこの黒髪。明らかに日本人である。しかし、なぜこの少女が空から降って来たのか。 「やっぱり……ここ、日本じゃないんだ……」 小さく少女が呟いた。 「どの人もみんな日本人っぽくないし……ねぇ、あなたは日本人じゃないの?」 「俺は生まれも育ちもルバルアだ」 「うそぉ……」 嘘は言っていない。前世では日本人だったが、転生した今は立派なルバルア人だ。 この少女に転生者である事を話すとややこしい。直感的にそう思った。 「そろそろ黙ってくれ。宮殿に入る」 門番に合図を送ると、仰々(ぎょうぎょう)しい門が音を立てて開かれた。その中心へ馬を進める。 「すっごぉい! ね、あなたがこの国の王様なの?」 正しくは“王様”ではなく“皇帝”だと心の中で訂正する。皇帝は王よりも上位で、別物だ。 「そんなわけないだろう。黙ってくれと言ったのが聞こえなかったか」 思った事を考えもせずに次々口に出すなという台詞を呑み込み、代わりに硬い口調で言う。そろそろ本当に黙って欲しい。 厩舎の前で鞍から降り、手を差し出す。 「降りろ」 「あ……はい」 少女は殆どリューシの手に(すが)り付くようにして馬から降りた。 「こんなエスコートみたいなの、された事ないから照れちゃうな」 そんなつもりはない。ただ、怪我をした時の治療の手間を省いただけだ。えへへ、と笑う彼女に親近感は抱けなかった。 厩舎の中に青馬(アオバ)を入れ、少女に「付いて来い」と声を掛ける。慌ててパタパタと駆けて来る音だけを確認し、そのまま早足に歩く。
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