3242人が本棚に入れています
本棚に追加
/407ページ
「見事だ」
重厚な響きの声が賞賛する。威厳に満ちた初老の男の周りには、数人の従者が控えている。
「いつ見ても見事なものだ。お前程腕の立つ者は他に居まい」
「は。勿体無きお言葉」
跪き、硬質な声で応えるのは、若い男。周囲が金髪や茶髪ばかりの中では、短く整えられた漆黒の髪が目を引く。
「リューシ、面を上げよ」
リューシ、と呼ばれた男がは、と短く応える。伏せていたその顔が正面を見た。鋭い眼光が初老の男に向けられる。
例えるなら鷹。隙のない、研ぎ澄まされた光。
「時に、リューシよ」
その瞳を真っ向から見返し、初老の男は顎に蓄えた豊かな髭を撫でながら問う。
「今度の戦はどうなる。お前の見解を聞きたい」
「は。あちらには名将がいると聞いておりますが、綿密に計画した戦を得意としているようです。ゲリラ戦を仕掛ければ壊滅させられます」
男の表情はピクリとも動かないが、その言葉には自信が滲んでいる。
「ふむ……勝てるか」
「はい」
この男は「恐らく」や「多分」等という言葉は使わない。口にする台詞はいつも確信めいている。
「期待しておるぞ」
「は。陛下のご期待に添えますよう」
──若い男の名は「リューシ・ラヴォル」。
齢24。若くして帝国軍を率いる、鬼才の軍人。
それと同時に、次期皇后である。
最初のコメントを投稿しよう!