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「見事だ」 重厚な響きの声が賞賛する。威厳に満ちた初老の男の周りには、数人の従者が控えている。 「いつ見ても見事なものだ。お前程腕の立つ者は他に居まい」 「は。勿体無きお言葉」 (ひざまず)き、硬質な声で応えるのは、若い男。周囲が金髪や茶髪ばかりの中では、短く整えられた漆黒の髪が目を引く。 「リューシ、面を上げよ」 リューシ、と呼ばれた男がは、と短く応える。伏せていたその顔が正面を見た。鋭い眼光が初老の男に向けられる。 例えるなら鷹。隙のない、研ぎ澄まされた光。 「時に、リューシよ」 その瞳を真っ向から見返し、初老の男は顎に蓄えた豊かな髭を撫でながら問う。 「今度の戦はどうなる。お前の見解を聞きたい」 「は。あちらには名将がいると聞いておりますが、綿密に計画した戦を得意としているようです。ゲリラ戦を仕掛ければ壊滅させられます」 男の表情はピクリとも動かないが、その言葉には自信が滲んでいる。 「ふむ……勝てるか」 「はい」 この男は「恐らく」や「多分」等という言葉は使わない。口にする台詞(せりふ)はいつも確信めいている。 「期待しておるぞ」 「は。陛下のご期待に添えますよう」 ──若い男の名は「リューシ・ラヴォル」。 (よわい)24。若くして帝国軍を率いる、鬼才の軍人。 それと同時に、次期皇后である。
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