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街中を行く漆黒の馬の背には、黒髪の男。その腰にしがみついているのは、珍妙な衣装を纏い、長く艶やかな黒髪を靡かせる少女。黒ばかりの取り合わせに、道行く人々は目を奪われる。
「黒髪の女だ……」
「黒髪はリューシ様だけのはずじゃ……!?」
男──リューシはざわめく民衆には目もくれず、一心不乱に馬を駆けさせていた。
受け止めた以上、はいさようならというわけにもいかない。第一、黒髪の少女とあれば、あのまま放っておくととんでもない騒ぎになる。治安の維持を考え、とりあえず宮殿に連れて行く事にした。それはそれで騒ぎになるが、やむを得ない。
しかし、リューシはこの選択を早くも後悔し始めていた。
「ねぇ、どこに行くの? ここはどこ? あなた誰? あたし、どうすればいいの?」
喧しく背中に質問を浴びせかけて来るのだ。先程からずっとこの状態である。始めこそ「ああ」と適当に返事をしていたが、全速力で馬を走らせている中ではそれすらも煩わしくなった。途中からは一言も喋っていない。
やはり放置すべきだったのだろうか。今考えれば、あの草原に人が来る事は滅多にない。野垂れ死ねば誰にも発見されなかったかもしれない。
我ながらとんでもない考えが頭を過った時、少女が声を上げた。
「わぁ……! 何ここ……お城……!?」
目の前に現れた豪華絢爛な建造物に目を輝かせているのが振り返らずともわかる。
「我がルバルア帝国の宮殿だ。中での言動は慎んでくれ」
この調子で大臣達にまで絡まれては面倒だ。
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