その庭の奥には木乃伊が二匹(前)

5/6
前へ
/16ページ
次へ
 リンゴもバラ科の植物であるらしい事は、薔薇について調べた時に知った。実際、いざ調べてみれば結構意外なものがバラ科に属するらしい。――びわ、桜、桃、苺。  つい食べ物に目移りしてしまうのは、自分の現金さか。しかし確かに、あの庭にはリンゴの木が無かったな、と思い出す。それを彼女は寂しがったのかもしれない。  年頃の娘ならば、リンゴの甘い香りも・・・白くて、けれども淡い桃色を湛えた小花も好きそうだ。    少女に頼られたのだという、浮ついた心地のままに、私は大叔父に進言した。あの庭に、リンゴの木を植えさせて欲しい、と。しかし大叔父の返事は『否』、である。  思えばあの庭は大叔父の所有物である。必要なものならば、とっくに大叔父が揃えているだろう。そんなところに、私のような若輩者が意見しようというのだ。私はその不敬さにようやく気付いて、真っ青になって平謝りした。  しかし大叔父も、決して私の態度が不快であったわけではないらしい。むしろ機嫌よく体を揺らして笑いながら、これからもあの二人の事を宜しくとまで頼まれてしまった。  驚くやら恐れ多いやら。目を白黒させる私に、大叔父は言った  しばらくあの二人の相手をしてやって欲しい事。  あの二人とのやりとりを、飼い主である大叔父に逐一報告する事。  そしてそれらをしてくれるのならば、屋敷にしばらく滞在する事を許すという事。  ―――どうするか?・・・と楽しむように問われた内容は、私に断る理由も無く、ぶんぶんと縦に首を振っていたのは言うまでもないだろう。    語る上で、私はあの二人組を『二人』と表現するが、大叔父は常に『二匹』と表現していた事は、ここに一度追記しておく。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加