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「カイン……兄さん……何故……!?」
薄暗い木造の部屋の中で、カインと呼ばれた男が一人。
己よりも一回り小さい青年の首を、真綿で絞めるように強く握り締めていた。
青年の顔は息苦しさのあまり醜く歪む。しかしそれでも腰まで届く黒い長髪をなびかせる男はやめようとしない。むしろ彼が苦しみもがく姿に、愉悦さえ感じていた。
「これはすごい……お前のような強者ですら、こうも容易く……! すばらしい、実にすばらしい!」
男は相手の首を絞めているにもかかわらず、首を絞めて持ち上げている自分に歓喜していた。
青年は男の両腕を握り必死に呼吸しようともがき、足をばたつかせてなんとか振りほどこうとする。
だが男の腕力は、あまりに強すぎた。抵抗もむなしく、青年の唇は徐々に豊潤な赤色から、毒々しい紫色へと変わっていく。
「弟よ。この実の兄たるユダ・カイン・ツェペシュ・ドラクルからの、最初で最後の願いを聞いて欲しい」
男―――ユダ・カイン・ツェペシュ・ドラクルは唇を悪辣に吊り上げ、死に底ないとなろうとしている弟に、笑みをこぼす。
だがその笑みはもはや、人の笑顔ではない。悪魔が人から対価を奪い去るときに浮かべる、死の笑みそのものであった。
たとえ血の繋がった者であろうと殺す事に何のためらいもなく、人を殺めることに何も感じない。むしろ、圧倒的な力で殺せることに快感すら得ている。
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