裏切りの神官

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 男ユダに、もはや弟への愛情や、兄弟の絆など皆無であった。  ただただ圧倒的な力で首の骨をへし折れる。その圧倒的強者の愉悦こそが、今の彼を彼足らしめているのだ。  死にかけの弟に、兄は言った。容赦なく、躊躇なく、ただひたすら平坦に、しかし明瞭に。  悪魔の微笑を浮かべながら、己が実の弟に叶えて欲しい最初で最後の願望を、楽しみながら口にしたのだった。 「死んでくれ」 「ユダ……! ユダ!!」  老人の声で我に帰る。  神父服に身を包む老人を囲っていた近衛を、邪魔だから殺すただそれだけと言わんばかりに、杖で殴り殺した。  彼らは目を血走らせて血反吐を噴き出し、前のめりに倒れる。薄暗い建物の床は鮮血で汚れ、血溜まりとなって服装を赤く染めた。 「貴様ぁ……! 裏切りおったな……!?」  老化によりくすんだ肌色としわくちゃな皺だらけの顔が、怒りと憎悪で激しく歪む。  老獪の前に同じく神父服を着た中年男性が一人。 「馬鹿め……今頃気づいたのか? 私はお前らのような、有象無象に成り果てた凡愚など、一度たりとも味方と思ったことはない」  若くもなく、しかし年老いてもいないその男は、血がべっとりとついた杖を片手に、真顔で老人も殴り殺す。  老人の頭部は、まるでざくろのように飛び散る。血を噴水の如く飛沫させながら、老人だったそれはよろけるようにぐしゃりと後ろへ倒れたのだった。
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