青天の霹靂

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「ビア。いいの?」  控えの間にいた侍女が尋ねてくる。 「何が?」 「フィランドル・テーランス公爵っていえば、数々の浮き名を流すエメラルドの貴公子だぞ?」  同じく控えの間にいた侍従が言う。 「だから良いんじゃない。これほど都合の良い相手が他に居るわけない」  侍女ーーミヒュラー伯爵家の三女・ナーシュと侍従ーーバードランド子爵の三男・キリルは心配そうにビアンシェを見る。女誑しの公爵相手に、上手く交渉して結婚を受け入れさせた手腕は、流石だが、本当のことを知られれば怒りはしないだろうか。 「でも本当のことを知られたら……」 「いや、聞かれたら答えたよ、ちゃんと。何故公爵の相手が私なのか」  隠すつもりは無かった、と、アッサリ言うビアンシェ。ナーシュとキリルは、そういえばこういう性格だった、とがっくりした。気を回して馬鹿みたいだ。 「普通はどうしてビアが相手か尋ねるよなぁ」  キリルが溜め息をつきながら苦笑いを浮かべる。そういった疑問を抱かないところに、お坊ちゃん育ちの人を疑わない性格を見出す。 「普通は、ね。根っからのお坊ちゃんなんだろうね。人を疑わないっていうかさ。まぁ良かったよ。結婚する気が無いのに、無理やり縁談を組まれそうになったから、先手を打ってこの人と結婚したい、と言った相手だって正直に話す必要が無くて」  ホッとしたようにビアンシェが息を吐き出す。 「そうねー。まさか、数々の浮き名を流しているから妻を見向きもしないだろうからって選ばれた、なんて知りたくないでしょうね。顔で選ばれたんじゃないことを知ったらショックを受けそうよねー」  ナーシュも深く息を吐く。 「ちなみに、あの方にはなんて言ったんだ?」 「テーランス公爵に群がる女性達と同じく、公のエメラルドの瞳に魅入られたって適当に」 「……本当に適当ね。ビアは、公爵みたいな女誑し嫌いじゃない」 「というか、恋愛に興味ない。男性だろうと女性だろうと美しいものは美しいと認めるし、愛でたくなる。だけどお付き合い的な感情は無いな。まぁ公爵のエメラルドの瞳は観賞するには値するけどね。でもあくまで観賞対象。女誑しなんて女の敵だもんね」  ビアンシェの発言に、そうでしょうとも。あなたはそういう性格よね、とナーシュとキリルは深く頷いた。 「さて。我らが主人の元に戻りましょうか」  ビアンシェに促され、ナーシュもキリルも歩き出す。3人は全員第一王女付きで同僚であり親しい友人だった。
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