第67話 なりあき様(2)

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第67話 なりあき様(2)

俺の身体はなりあき様の手に馴染んでいた。 言葉にはしなかったがお互いに「交わること」を欲していると気づいたときから、積極的になりあき様は俺にふれてきた。 今こうやって首から鎖骨、胸、脇と滑っていく手は、温かく嬉しい気持ちを俺の肌に擦り込んでいった。 なりあき様は腰帯をほどき、寝間着を俺から抜き取りながら全身をなでていった。 もちろん褌もあっという間に取り払わられた。 恥ずかしい気持ちもあったが、それよりももっと俺が「さわってほしい」と望む気持ちのほうが大きかった。 反応してこぼれる声も、びくんと跳ねる身体も、なりあき様は優しく包み、なで、そして唇を這わせていく。 「ずる、い」 「ん、なにがです?」 「俺だけ脱いで、ずるい」 こんなに激しく動き回っているのに、なりあき様の寝間着はちっとも乱れていない。 臍のわきを舐めていたなりあき様がぬんと俺の顔の前に現れた。 にやにや笑っている。 「脱がせて」 「いいんですか?」 「おいやですか?」 俺はおずおずとなりあき様の腰紐に手を伸ばす。 端を握った。 あとは引けばいい。 ただそれだけなのに、なんだか無性に恥ずかしくなって動けなくなってしまった。 「私を欲して、キヨノさん」 「は、はぁぁ」 情けない返事をしてしまう。 が、思い切って紐を引き抜き、緩んだ袷から手を入れた。 なりあき様の身体にさわるのは初めてではない。 でも、とても熱くてびっくりして、また手が止まってしまった。 なりあき様はもどかしそうにご自分で白い寝間着を脱いで、俺を抱きしめた。 「ふぅぅぅっん」 熱い。 そして腹に擦れるなりあき様の肌が気持ちいい。 どうしよう、肌と肌がふれあうのはこんなに気持ちいいものだなんて。 そのまま素直になりあき様に伝えるとなりあき様も同じだった。嬉しい。 「もっと、さわってもいいですか?」 俺が何度もうなずくと、「私にもさわってください」と言い、なりあき様は深く深く俺に口づけながら、大きな手で俺の背中から脇から胸から足からをなでていった。 それが熱く、気持ちよく、そして俺ももっとなりあき様にふれたくて、手をいっぱい動かした。 「口押さえないで。声我慢しないで、キヨノさん」 一度両方の手首を軽く布団の上に抑えられただけなのに、そこに固定されたように腕は動かなくなっていた。 なので、俺はなりあき様にされるがまま、そして漏れる声は我慢できず上げるまま。 なりあき様はギヤマンの容れ物に入ったとろりとした液を指に塗り、俺にふれた。 真っ暗なはずなのに、淡く青い靄はほんのりと光りあたりがぼんやりと見える。 そんなところを見られているのは恥ずかしくてずっと身体に力が入っていた。 仕方なく思われたなりあき様はあらぬところを口に咥え、舌で舐めしゃぶる。 手や指とは違う感覚でこすられ、刺激を与えられるとどうにもならなくなる。 ひどく感じ、ふわっと力が何度か抜ける。 それを逃さず、濡れた指は俺の中に入ってきた。 そうされて、どれくらい時間が経ったのか。 「綺麗ですよ、キヨノさん」 息を粗くしながら、時に太腿の内側に、時に下腹に口づけをしながらじゅぶじゅぶと指を動かしていく。 さっき「三本目、入れてみますね。痛かったらすぐに言ってください。絶対ですよ」と言われた。 痛いと感じる暇なく、外も中も「気持ちいい」だけを与えられた。 そしてそう感じたときにはきちんと「気持ちいい」と言うことも教えられた。 ときおり、下着越しにごりごりとしたものが身体のどこかになすりつけられる。 なりあき様はまだ下着をつけたままだ。 「なんで?」と聞いたら、「ケダモノにならないためですよ」と歯を食いしばりながら言っていた。 「どう、キヨノさん?」 「だめっ。だめっ。ぁあん、おかしくなり、そ」 「もう、そろそろかな」 「わから、な、いから、なりあき、様、決めて……」 「私も、限界」 なりあき様の動きが止まりちょっと離れてごそごそしている。 俺は恥ずかしいもへったくれもなく、掛布団はどこかにいってしまい、敷布団の上にはぁはぁと整わない息で横になっていた。 と、なりあき様が俺の膝を割って入ってきた。 「いい?」 「?」 「貴方と繋がりたい。いいですか?」 「はい」 熱いものがあてがわれた。 ひっ。 ぬぷっと先がめり込んできた途端、鼻の奥に広がる雨の臭い。雷。土砂降り。 「い、やっっっ」 身体が硬直し、不安と恐怖が渦巻く。 「キヨ…」 いやだいやだいやだ。 自分の中に侵入しようとする異物を全て拒む。 こわいこわいこわい。 血の臭いが充満する湿った夜に犯された記憶。 もう終わることがないのかと感じた絶望。 助けが来ない諦め。 自分の中の雄が砕かれ踏みにじられる時間。 『キヨノっ。キヨノっ。 我が声を聞け。 キヨノ、私だ。 私の声を聞け』 すべてを諦め手放し、白く無。 『キヨノ、聞こえているか、キヨノ。 私だ、暁門だ。 我が香りも忘れたか。 我が腕も忘れたか』 ふわりと白檀の香り。 『そうだ、キヨノ、いい子だ。 我を感じよ』 だんだん濃くなる白檀。 『私も、我が()も、そなたをこの(かいな)に抱けることを至福としている』 暁の君様……? 『我が声が聞こえるか、キヨノ。 目を開けて私を見よ』 こわい。 『こわくはない。 私がついている。こわくはない。 そっと目を開けてみよ』 でも…… 『案ずるな。私を信じよ。 愛しい人、私を見てほしい』 暁の君様の切ない声の響きに、こわごわつぶっていた目をそおっと開く。 そこには赤い右目と青い左目のなりあき様の、眉根にしわを寄せ、つらそうな苦しそうな泣きそうなお顔。 「……な…りあき…さま……」 「やめましょう、キヨノさん。 力を抜いて。 貴方から出ていくから。 同じ過ちを繰り返してはならない」 「なりあき、様」 漂う白檀。 なりあき様がなんだか遠くに感じられて、左手を伸ばす。 なりあき様が俺の手を取って、甲に口づける。 「愛しています。 だから傷つけたくない」 「なりあき様」 右腕も伸ばし、なりあき様の首に巻きつけ引き寄せる。 なりあき様の胸と自分の胸がぴったりとくっつく。 ことことことことことことと鳴るなりあき様の心臓。 ぐぐっと右腕に力を入れてなりあき様をもっと自分に寄せる。 そうして、そっと唇を重ねる。 「キ…?!」 今はあの夜じゃない。 多分、これからも何度もあの夜に苦しめられるだろう。 でもなりあき様と暁の君様が俺にあのときではない、と気づかせてくれるはずだ。 ほら、この香りで。 「愛しています」 やっと言えた。 ずっと言ってみたかった。 だから、来て。 「キヨノさんっ」 「はい」 「腕を」 「いいから来てください。もう大丈夫。なりあき様が大丈夫にしてくださいました」 「でも」 「一緒に溶けて」 思わず「ぐふっ」という声が出てしまった。 ものすごい勢いでなりあき様が入ってきた。 「貴方という人はっ」 「あっ、やっ、んんっ、んああぁぁんっ」 激しいっ。 揺さぶられ、ごりごりと熱が生み出されるところ押しこすられる。 なにこれ。 やだ、出そう。 「あ、もう無理っ。 一度出させてっ。出るっ」 そこからはもう、いつかなりあき様と一緒に乗った遊園地のトロッコのようにがくがくがくがくと揺すぶられ、身体の奥に熱いものが吹きかけられたのを感じた。
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