Dark Knight - Invocation

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Dark Knight - Invocation

クリスマスイブの夜。 世間の喧騒とはかけはなれた、薄暗い廃墟のような屋敷の中。 外界を拒むかのように締め切られた扉。 暗い、低い声がかすかに漏れる。 およそ人語とは思えぬ響き。 意味は判らずとも伝わる、不快な言魂。 屋敷の中には。 魔方陣と禍々しき冶具。 どす黒い赤で描かれた魔方陣。 冶具も同じ色の液体を浴びている。 魔法陣の前で、男が苦しそうにうめいている。 否。 それは詠唱だった。 魔方陣の中心部に、影がゆらぐ。 赤黒いモヤが沸き立ち、不気味に蠢く。 「成功・・・・・・か?」 男がつぶやく。 声が聞こえた。 ギイギイとガラスを擦るような、不快な声。 耳ではなく、脳に直接響く。 言葉は理解できない。 しかしその意味が脳に、心臓に突き刺さる。 望みを聞かれている。 叶えよう、と。 もちろんだ。 その為に呼び出したのだ。 復讐のため。 大切な全てを奪われた。 あの男を八つ裂きにするため。 力だ! 力を! しかし影を前にして、声が出ない。 身動き一つ出来ない。 憎悪と、怒りと、悲しみで胸が裂けそうになる。 影が、またゆらいだ。 聞き入れられた! 男はそう悟った。 願いは聞き届けられたのだ! 徐々に影が集まり、濃く、形をなしていく。 人・・・? なんと大きい。 禍々しき黒き甲冑の騎士。 その姿にはある種の気品すら感じられる。 これが・・・・・・なのか? 目の前に立つ、人ならぬ影の魔騎士。 これが求めた力なのか? 影が右腕を上げる。 握手? いや。 挙手? それもちがう。 右手に影が集まり始める。 集まった影が棒状になり、先端が膨らむ。 突起が出る。 棍棒・・・・・・か? 話に聞いたことがある。 悪魔の力が結晶化し棒状になった魔具があると。 この黒い棍棒が・・・・・・そうなのか? これが「力」なのか? この棍棒で望みを果たせ、という事なのか? 気が付くと、体が動くようになっていた。 棍棒を差し出してきた。 恐る恐る右手を伸ばす。 与えられし棍棒を受け取ろうとする。 影が笑った。 顔も表情もわからない。 しかし間違いなく笑っていた。 邪悪な、氷のように冷たい笑み。 一瞬恐怖に駆られたが、笑い返した。 また影が笑った。 笑い返した。 しかし何故、棍棒の柄の方をこちらに向けてくれないのか。 さらに影が笑った もう一度笑い返した。 不意に、魔人が右手を高くかざした。 そのまま右手が振り下ろされる。 視界一杯に棍棒がひろがる。 ぐしゃっ。 何かが潰れる音が聞こえた。 何の・・・・・・? 自分の・・・・・・ ・・・・・・ ・・・ 男は、全てを失った。 屋敷から男が出てきた。 足元がおぼつかない。 月の光が顔を差す。 暗い顔。 表情は無い。 しかし笑っていた。 間違いなく笑っていた。 邪悪な、氷のように冷たい笑み。 徐々に足元が定かになっていく。 何かを呟いた。 哀れな男が唯一残したもの。 「あの男を八つ裂きに」 クリスマスイブの夜。 世間の喧騒を避け、男は闇の中に姿を消した。 約束を果たし、この世界に解き放たれる為に。
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