『バン!』

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『バン!』

廊下の向こうから宮下が歩いて来るのが見えたので、咄嗟に曲がり角に身を隠した。 宮下はスマートフォンを見ながら歩いているので、どうやらこちらには気づいていないようだ。 彼の足音がすぐ近くに来たのを確認してから、思い切って彼の目の前に飛び出した。 あらかじめ用意しておいた、ピストルの形に変形させた右手を突き出して僕は叫んだ。 「バン!」  一瞬で自分が巻き込まれた状況を理解した宮下は、体をくの字に曲げ、右の脇腹を手で押さえながら苦痛の表情を浮かべて言う。 「うっ、、武田さん、、おはようございます、、いきなり何しはるんですか、、」 「おはよう、宮下。前見ながら歩かないと危ないよ。」 「ホンマですね、気をつけます、、めっちゃ痛いっす。。物騒なもの持ち歩かんといてくださいよ。」 「あはは、今日もお付き合いいただきありがとうございました。」 「べつにいいですけど、武田さんホンマこれ好きですね。あんま他の人にやったらダメですよ。あー痛。。」 毎朝のコミュニケーションが終わったのを確認すると、宮下は立ち上がってもともと向かっていた方向に進み始めた。 「バン!」 僕は懲りずに宮下の後ろ姿にもう1発撃ち込んだ。 「うっ、ってしつこいわ!」  動物には習性がある。意識とは別の、DNAに刻み込まれた、その種特有の性質だ。 虫は「走光性」という習性を持つために光に集まり、「逆光性」という習性のため光から逃げる。 一見可愛いペンギンは、仲間を海に突き落として天敵であるアザラシが周辺にいないかを確かめるという、なんとも残酷な習性を持っている。 そして大阪人は、「バン!」と言われると咄嗟に撃たれた振りをしてしまう習性を持つのだ、と入社して間もない頃の宮下は教えてくれた。  その迂闊なコミュニケーションのせいで、その後ほぼ毎日、僕に撃たれる羽目になるとは当時の彼は思ってもみなかっただろう。
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