疾走

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すぐにむくりと会長は体を起こした。 顔と手のひらと、破れたズボンの(すね)には、 細かいひっかき傷はあるものの 何処も他には怪我はなかったようだ。 会長は子供の頃のように声をあげて大笑いをした。 瞳がきらきらとしている。 「どうだ!見たか!なんと爽快な。なんと愉快な!」 思い出したのだ。 自分の力を信じて、先の分からないものに向かってゆくワクワク感を。 それで失敗して失敗して失敗しても、それが次に繋がっていったのだ。 「会長!」 心配して後から車で付いて来ていた運転手が、 会長のボロボロの姿を見て声を上げた。 会長は満面の笑顔でふり向いた。 「今日は会社には行かん。マリコのところに行ってくれ。」 「かしこまり・・ました。そのままでよろしいのですか・・?」 「勿論だ。すぐに頼む。」 会長は後ろに乗るとにこにこした。 マリコは私に性格も根性もよく似ている。 彼女なら、どんな馬の骨だってきっと立派な亭主にするだろう。 マリコをレールの上に乗せて、彼女の可能性を奪ってはいけない。 きっと私より立派な事を成すだろう。 マリコの家に行くと、びっくりして彼女が飛びついてきた。 「おじいさま、その姿どうなさったの?お怪我をなさっているわ!」 大丈夫、大丈夫と彼女の手を取ると、会長は言った。 「マリコ、結婚おめでとう。君のじいちゃんにもお祝いを言わせてくれ。」 マリコの大きな瞳から、みるみる涙が溢れた。 「私、大好きなおじいちゃんに祝福していただけるのが、 どんなことよりも嬉しいの。 ありがとう、おじいちゃん!大好きよ!」
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