疾走

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会長は怒っていた。 いつもは毎日車で運転手に送迎されるのだが、 つい皆に当たり散らし、ぷりぷりと先に歩いて出てしまった。 自分の会社を建てて、様々な苦労してここまで大きくしてきた。 嫌われ役もやってきて、家族にも会社一筋の自分に文句を言わせなかった。 腹の立つことも、他人には見せない辛さも沢山あった。 それでもこんなに今まで腹が立ったことがあっただろうか。 妻を亡くしてから、子供達には(うと)まれているとは解っていたが その中でも末の娘には、自分と同じ仕事の才があり、 自分が見込んだ社員の中から婿を取らせ、次期社長にと()えた。 その二人の一人娘がマリコだった。 マリコは賢く、自分にも(なつ)き 目の中に入れても痛くない孫だった。 ゆくゆくはこの会社も、財産もすべてマリコに託すつもりだった。 そのマリコが、どこの馬の骨ともわからぬ男と 結婚したいと報告に来たのだ。 何という裏切りだっ! 会長は昨夜自分を見つめて涙をぽろぽろこぼしていたマリコを思い出し やりどころのない痛みと悲しみで、思わず手に持っていた木の杖で どんどんどんと鼻息荒く、地面を強くたたいた。 ふと足元を見ると、スケートボードが落ちている。 周りを見渡しても持ち主らしい子供もいない。 むしゃくしゃしていた会長は、 おもいっきりスケートボードに八つ当たりをした。 ・・・悪くない方の足で力いっぱい蹴飛ばしたのだ。
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