三章 屍の楽園と魂者___足りない言葉

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大人しく馬に揺られながらひたすら街を追い抜いていく 途中休憩を挟んだけど、その時に話した内容はとても驚くことだった 全てを知って、自分の意思でここへと来ていると思ったリグレアも、俺と同じくほとんどを知らないままでここに居るということに 「スノアに説明できるのであればいいけれど、私も知らないから何も言えない。私も何も聞かされていないんだ。事が起きたのはどうやら、私がスノアと一緒に暮らしていたときのようだから」 腹を抱えて蹲る俺の背を撫でる手に少しずつ慣らされていく 馬に跨る前に乗せられて、駆ける馬の揺れに耐えながら休憩を挟んでまた走る リグレアと居た時間は一言に長くはない…とはいえない それだけの時間、探されていた事も知っていたけれども、どうやら探し始めたのはそんなに早い時期ではなかったようで つまり、何かがあった そう全てが主張していたんだ 「見えてきた」 「リグレア殿下、私は先に向かいますので、エユと一緒に来てください。すぐに王城まで通れるように手配します」 高い城壁、少しずつなだらかになっている道を登った先には、遠目でしか見たことのない大きな城 この辺りになると道を歩く姿もあって、全員が後ろの第二王子であるリグレアの顔を知っているのか、驚きと興奮で指を指していた 並ぶ列を無視して門へ行き、門番が何も言わずに通す 中にある道は大通りの脇に今さっきまで動いていたであろう馬車が止められていた それは城まで続いていて……堅牢な鉄の門が閉められたとき、ようやく自分が城の中にいることに気がつく 何もみる暇がなかった ただ風のように人の中を通り過ぎただけだった 先に降りたリグレアが手を差し出してきたから、ありがたく体重をかけて降りると、近くにいた鎧を着た人が馬を連れて行った 「お待ちしておりました。王と、ランフィ様、マティーア様がお待ちです」 「行こう。私達も一体何が起きているのか、知る権利がある」 「…」 疑問は尽きない どうして魔女が人間と一緒に行動しているのか あのとき襲ってきたのはなぜなのか そもそも、魔女の村を襲った事が許せなくて起こした行動だったと言うのに、俺の場所に現れたのか 全てを、知っていたのか 優雅に頭を下げる老執事の後をついていく 日の光を反射する磨かれた廊下に、手すりもない吹き抜けの場所は屋根のない場所から緑に覆われている 向かっているのはおそらく、庭の一角 構造は知らないが、点々と案内するように敷かれている石の道は奥へと続いていた 「聞かれたらまずいのではないか?」 「それならばランフィ様が対策をなさっておいでです」 「やはり、魔法は本当に未知のものだ。外だと言うのに聞かれる心配がないなんて」 「わたくしめもそう思っておりますよ。さ、あちらにいらっしゃいますので」 奥へどうぞ、と言わんばかりに手で促され、また優雅に一礼をして去っていく 俺はリグレアの後ろを歩くようにしながら、植物の屋根を潜っていくと、空からの光がある場所に出た 奥に見えるのは薄青の屋根がある小さな小屋 白の柱と机、椅子が置かれていていくつかの本や紙も乗っていた そこに座るのは短く切りそろえられた髪をした魔女と、長くおろしている髪の魔女 奥に見えるのはリグレアと同じような配色を持つ、鋭い美貌を持つ男だった 「お待たせしました兄様」 「遅かったじゃないか!何かあったのかと心配したよ。俺の隣へ来い。…ああ、そっちの魔女はランフィの隣だからね」 「我が君をそっちの扱いしないでもらえる?不愉快」 「悪かった。だが名前も知らないのにどう呼べばいいんだい?魔女の王だから魔王とでも呼べばいいのならそうするけれども」 雑多に聞こえる諸々を無視して座る 椅子はちょうど五脚のみ 全員が座った所でリグレアに兄様と呼ばれていた男が口を開いた 「よく集まってくれた。これから話していくことは場にいる全員に関係していることでもある。まずは……かつて魔女の村にいたランフィとマティーアから話すといい」
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