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三章 屍の楽園と魂者___繋がる物語
No.sideーー
「もうそろそろかなぁ。ねえ、どう思う?」
「ハハハ。俺に言ってどうするのサ」
「それもそうだね。スパンクル」
死の香りが漂う中で、ゆっくりと体を持ち上げたのは、まだ幼さの残る顔立ちをした少年
ずっと開かない目を正確に横にいた男に向けると、小さな口の端を持ち上げ笑う
カラカラと笑顔になるのと同時に、あたりに咲いた色とりどりの歪な花が音を立てた
騒ぎ立てるよう、気づいてくれと嘆くよう
「嬉しいんだって?良い夢を見させてあげる。今日は気分がいいんだ……って、またはじき返された。流石、魔女の血筋は一筋縄にはいかないなぁ」
苛立ちを含んだ声は笑顔のまま吐き出された
少年の様子を隣の男は、幾重にも巻かれた包帯の隙間から覗かせた目で見ている
濁った藍色は頭の中と顔が一致しない不気味な主を面白そうに見る
「でも、食っちゃダメなのかーーーナ?」
「駄目。これは僕の戦利品。君はあっちを食べなよ」
あっち、と指を刺された方には腐りかけの異形の死体の山
不満げな声を上げながらもう一度少年を見るが笑顔で封殺される
「ワーったよ。美味しく、美味しくイタダキマース」
ペロリと舌舐めずりをしながら、今日の食事を見た
数分後、あれだけ山になっていた死体の山は何処にもなかった
それどころか下にあった土も、まるで抉り取られるかのように土ごとなくなっていた
側には口周りをべっとりと血で濡らした男
スパンクル、と呼ばれていた彼はゴシゴシと袖で口元を拭うとそれはそれは満足そうな笑顔で少年の元へと戻っていく
「相変わらず早いねぇ。食べたそらないんじゃないの。いつも思うけれども君の食べっぷりと悪食は食欲を無くすよ」
「エエェえっ。あんなに旨いのに勿体ないナ!」
「僕はそんな腐ったもの食べないよ。人の夢を見ている方がよっぽど面白い。魂の記憶はなんて甘美なんだろうね……。まあ、まだとっておきからはもらえていないんだけれど」
少年は横に目をやる
白い透明感のある花弁の中に赤の雌しべがいくつも並んでいるのがわかる
全て纏まって生えているが、どれも蕾のままだった
とろりと緩められる
甘い香りが漂ってくるが、花の蕾は一向に開く気配もなく
少年は諦めて香りを消すと座っていた草の椅子の肘掛けに顔を預けた
「あーあ、つまんないの」
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