三章 屍の楽園と魂者___繋がる物語

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無言の時が過ぎていく 俺も行くと、いえばいいのだろうか 自分の気持ちすら分からない…いや、そんなことはない できることなら手伝いたいと思った でも、口を開こうとしてもなんて言えばいいのか分からなかった さっきは、あんなに話すことが出来ていたのに 「そろそろ私達も動かなければいけない。時間は限られている。早くしないと、魂ごと喰われてしまう」 「夢も好きだけれど魂を喰らうのも好きっていうのは、厄介よねぇ。悪いけど、また借りていくわね」 「何を「傷をつけたらいくら魔女でも容赦はしない」」 「もちろんよぉ。ただ、私たちに人間は勝てないわ。残念ね。それよりも面白いことになっているじゃなあい?私達は巻き込まれないうちに行くわ。我が君もよ。我が君にも関係のあることなのだから」 「えっ」 「ん……ああ、こちらも忙しくなりそうだ……」 和やかだった話は終わりを迎えたのか、二人が立ち上がる いつの間にか、慌ただしく沢山の人が向かってきていた ランフィは俺とリグレアの手を掴んで、細腕からは考えられない強さで今までいた庭園を立ち去る その時、リグレアに向かって聞いた言葉に返事を返すのが聞こえた 「リグはいいんだね。もう変えられないよ」 「…構わない。私はもとより、兄様の剣になりたかったのだから」 『『noitangi sednoitacol…refsnart』』 城門を超えたところでぐにゃりと景色が変わる 慣れ親しんだ転移の魔言が二人の柔らかい声で奏でられていた 行き先は俺は知らない 多分、リグレアも知らなかったんだと思う その証拠にあたりを不思議そうに見渡していた 恐ろしいほどに高く聳え立つ山を後ろに、暗い口が下へ向かって開いている 中には石でできた階段があり、入り口に二本の赤い火を灯した松明がゆらゆらと揺れていた 空気が重い まるで体一杯に水を吸い上げたように重く感じるのは、封じられている何かの気配なのか 『erehth gilre htag』 マティーアが杖の先に光を集めて暗闇を照らす 一歩一歩と杖で階段を突きながら降りていくのを、俺とリグレアは無言で付いていっていた 「王子様は知っていたかしら。この世界にいる人間以外の種族」 「…確か、魔女と人狼……だったか?」 「残念ね、不正解よ。確かに魔女と人狼はとても有名。でも、他にもいるわぁ」 「他の種族、神族と悪夢がいる。どちらも温厚で、それでいてとても面倒くさい」 急に始まった話に耳を傾ける 「覚えておいた方がいいわあ。多分、我が君は知っているでしょうけれどね。これから行く場所にいるのだから」 種族に関しては本で読んでいた…実際に見たことはないけれど カツン、と一際大きな音が鳴る 目の前にあったのは行き止まりで、壁には無数の蔦と傷跡がある 二人の魔女はにこりと笑う そしてリグレアは…どこか、おぼつかない足取りで前に進み出ると、自分の手に持っていた短剣で傷を作った 流れ出る血もそのままに壁に押し付ける 歌うように紡がれる言葉は魔言によく似ているけれども、違うものだった 意味は…理解できない 「勝手に動くのね。初めて見たわ。これじゃあ文献にしか載っていないわけよね」 「私達の知識にもないのも頷ける。だって人間の城に隠されていたんだから。それで言えば、とても実りのあるお城での生活だった」 「魔女の知識に納められたものね。ふふ」 二人が笑っていると声が病んだ 扉に光が走り少しずつ開いていく様子を、どこか茫然と見ているリグレア 前に行って顔を覗き込むと空な目をしていた 「(…どこか、変だ。血に、魂に刻まれたもの……なのか?)」 目を覚まさせるために力一杯背中を叩くとハッと目に光が戻ってきていた 「…?一体私は、何を…?ここは…」 リグレアが見た先、そこには暗い中、赤の光と不気味なほど精巧な石の像が花に埋もれているような場所だった 日の光もないのに美しく咲く花と、言葉を話さない石像 間に一本の道 花を踏みつけることのないように歩き始めた二人を、まだ立ち竦んでいるリグレアを無理やり引っ張りながら付いて行った
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