三章 屍の楽園と魂者___繋がる物語

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暗いくらい穴の下のはずなのに…その思いは先に進むにつれて強くなっていく 花と石像のある洞窟、と言える風景から一転、高く空へ吹き抜ける赤と黒の天井の隙間から黄色い月が見えていた まるで、外の世界と色が反転したかのように 「そろそろね。嫌な感じ」 「どこかで見ているよ」 何を……? 俺の疑問はすぐに消えた なだらかな傾斜の奥、少し土が盛られたような小さな山の上にある人工物 相変わらずに周りに花は咲き乱れていて…いや、さっきの場所よりも散らしている数が多くて 花びらがいくつも落ちている道を進んだ先には、黒い花の咲いた荊棘を椅子の形に押し込めたようなものに座る、小さな人影があった 毒々しい程に赤い髪を肩で切り落として、褐色の肌、肌の上に走る継ぎはぎの痕 浮かび上がるような白と赤の不思議な装束を身に纏った少年は、両目を白い布で固く閉ざしている なのに、俺たちの方に顔を向けたときに“目が合った”と思ったんだ 「……あは、こんなところに生きた人が来るなんていつぶりだろう。ついこの間?まあいいかな。いらっしゃい。魔女御一行と王の血筋。鍵を開けたのは君だね?」 形よく歪められた口を手で隠しながらクスクスと笑う少年に、艶やかな微笑みを返したのはランフィだった 杖をつきながら一歩、一歩と近づいていく 「そうよぉ。初めて見るわ。会って早速なのだけれど、同胞の魂を返してもらえない?あの子が勝手に結んだ契約に同胞は関係ないもの」 あの子、とランフィが指したのはいつかの魔女 魔女の村を襲うだけでは飽き足らずに…人の国まで手を伸ばそうとした狂った魔女の事だと言うのは、言われなくてもわかった 顔を上げる 少年はランフィの方を見ているはずなのに、俺を見ているような気がしていた 「そうそう、それそれ。聞いてよ。僕が夢を見せていい思いをさせてあげるって言うのにずっと拒絶したままなんだ。そんなのおかしいよ!だって他の魂はみんな僕の言うことを聞いたのに、ねぇ」 少年の言葉と一緒に綺麗に咲きほこる花が風もないのに揺れた さわさわ、ざわざわと 「これは…(…これ、花じゃない。命のような……なんだ?)」 「それは抵抗力がないからよ。悪夢の力は魔法の一つと並ぶの。普通の人間には無理よ我が君」 「抵抗されればされるほど燃えるんだけどなー。別に、死んでても生きててもいいんだよ?君たちの王様貸してよ。面白そう」 「!!」 「嫌よ冗談じゃない。かわりにこれをあげる」 マティーアが瓶を投げると割れないように掴んで栓の部分に触れる 「……君たちもやるねぇ。あの魔女こんな小さくなっちゃったんだ。あっははは!! いやあ、僕と契約したのにこんな体で帰ってくるなんてなんて面白いんだろう!それに……体はないけれど、僕の好きな味がするなぁ。いいよ、交換で」 何度か手の中で遊ぶようにして振って、液体のようになってしまったという姿を見て笑う 口元だけの笑顔はまるで慈悲を与えているかのように柔らかな物だった もっと、戦いになる程殺伐とした雰囲気になる物だと思っていた 少年が手を横に薙ぐ すると傍に生えていた蕾の花が一つ、また一つと上へ砂のような粒になって登って行った これで、いいのか 「もう用はないんでしょ。ならバイバイだね。最後に一つ、彼女が僕に持ちかけた契約の内容を教えてあげる」
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