三章 屍の楽園と魂者___繋がる物語

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「彼女は二人でここへとやってきた。そこの人間と同じ鍵となる王の血筋を連れて」 「ヴァーレハイドの王族ね。記憶を見たからわかるわ」 「彼女は僕にこう持ちかけた。 『私の片割れを連れてきてくれるのならば、何でもいうことを聞く』ってね。 だから僕は『死んだ記憶ごと生き返らせられるかはわからないけれど、沢山の魂があればいけるかもね』って言った」 片割れを…… けれども魔女の魂は輪廻を繰り返したとして同じ魔女として生まれてくるはず 記憶を持って生まれてくるかどうかは賭けに等しいが、それでも魂と結びついている魔力は同じもので 悪夢だという少年に願わずとも、同じ魔女として生まれてくるのを待てばいい話 そんなことのために、多くの魔女が殺されたというのか…! 「……」 でも、いまの話を聞いてわかったこともある 全ての元凶である魔女は…多くの魂を狩るよりも質が高いであろう魔女の魂を狩ることを選んだのだと 他の種族…人狼は、魔女が敵対するにはあまりにも力の相性が悪い だから魔女を選んだんだ 全て自分の為に 「そんなに怖い顔をしないでほしいな。もう済んだことだから気に病む方が体に悪いよ…そうだ、忘れてた。ここ、よく道が変わるから迷子になってしまうね」 リグレアがすぐに言われた意味を理解したのか辺りを見渡した 「…道が、無い?」 「あら本当。困ったわね」 「僕だって久しぶりだったからさぁ忘れてたんだよね。道を変えないでって。神族が勝手に遊ぶんだから仕方がない。スパンクルー!いるー?」 よいしょと小さく掛け声をかけて立ち上がった少年は辺りを見渡して、今までの声量からは考えられない大きな声で誰かの名前を呼んだ スパン…クル? すると少しずつだけれど、血の匂いが近づいてきて…少年に抱きついた 背の高い青年…けれども、人間ではない 口を開けて笑った歯は尖っていて、それよりも、顔や服に血がべっとりと付いていた 「ご主人、呼んだカ?」 「食事中に悪いね。彼らをここから外へ案内して欲しいんだ」 「へーーえ?」 思わず鼻を抑える この匂いはある意味で慣れ親しんだ、異形のものだった 「やだ臭い。ちょっとこっちきなさいよ。その匂い消してあげる」 「ランフィ早く。私この匂い嫌い」 「ええ任せて」 「ご主人ーー!こいつら誰?なんか俺の体マサグッてくるんだけドッ!」 「何やらしい言い方をしているのかしら。触らないと汚れ落とせないじゃないの」 ランフィが服と顔に手をおいて魔言を唱えるとすーっと血が消えていった けれども異形の匂いはそうそう落とせるものじゃなくて……って そういえば、と亜空間から取り出す 作ってはみたものの結局使わなかった魔女の薬…異形の異臭も消し去ることができるはずだと…俺は、瓶の蓋を開けた 「…?我が君」 「どいて」 「えエェ、何すんぐはッッッ。うオェええまっずうう」 「……スパンクル。もしかして薬系は味が感じ取れるのかな?いや、そもそも君自体あれな存在だけどさぁ」 口を挟んで無理矢理飲み込ませた薬が効いてきたのか、少しずつ異形の鼻に付く匂いが消えていく そんなに、変な味ではないと思うけど 対照的に、スパンクルと呼ばれた男は喉を押さえながら蹲っている 「まあいいや。じゃあ行っておいで。僕はもう眠いから一休みするよ」 「ゲホッゲ…ッ……!!まだ、口ん中に、残ってる気がするんだけドー」 立ち上がる ギョロリとした目玉を閉じた目の下に隠して、にっこりと笑った 「…フゥ、んじゃご主人に頼まれたから連れてってやるヨ。ありがたく思えよナア」
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