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三章 屍の楽園と魂者___別れ道
No sideーー
「父上!」
動揺を見せぬように兵達について行った先、俺ともう一人の王女であるアデリーナが白い寝具の前に立っていた
崩れ落ちそうな姿を隣にいる老執事が支えている……やはり、そうなのか
「父上は」
「たった今、眠りに……」
「そうか……」
静かに聞こえる泣き声
紙に何かを書き留めながら喉元に手をやり、胸の辺りを押さえていた薬師は俺とアデリーナを見て力なく首を振った
父であるリンクドールの国王ガレは今年で五十二の歳を迎えるはずだった
そろそろ王位を譲ることを考えていると言われたときに倒れられた父上は、今の今まで起き上がることもできなかった
もとより話はついていたんだ
弟である第二王子のリグレアは俺の下で支えていきたいと言ってくれている
妹のアデリーナは騎士団副団長と恋仲らしく侍女から何度か微笑ましいという言葉がを耳にしたことがある
周りの貴族共は俺とリグに派閥が分かれていたようだが関係ない
それに……
ーー今、リグは魔女と共にいる。この場にいないことこそ、意味がある
今、この国を導くものはいない
まだ民も王が崩御したことを知らずにいる…ならば俺が取るべきことは一つしかない
「カーデラ、民に国王が亡くなり私が新たな国王となる事を伝え、大臣を集めてくれ。戴冠の儀を行う」
「畏まりました」
「私にはまだ妃も、婚約者もいない。戴冠はアデリーナ、手伝ってくれるね」
「もちろんですわエレお兄様。わたくしが王冠を……誰にも、エレお兄様が王の器ではないなどど言わせませんわ。リグお兄様もそうおっしゃるはずです。……そういえば、リグお兄様はどこへ?」
「ああ…リグには私の代わりに大事な事を任せている」
「大事なことって、書庫に居座っていた方に関係のあることね。ねぇエレお兄様、教えて頂戴。あの方達は一体誰なの?わたくしは籠の鳥ではないのよ」
辺りを見る
これでも気配を感じることだけはできるからと人がいないかを確認するが誰もいなかった
薬師も執事も気を使ってくれたのだろう
俺はアデリーナを手招きしてから胸元にある小さな耳に静かな声で言った
「あの人たちは魔女だ」
「まっ「静かに」……魔女…とは、あの薬を作っている方々ね。どうしてそんな方がこの城にいたのです」
「なりいきだ。後で全て話すからまずは自分たちの問題を片付けよう」
「……エレお兄様がそういうのなら、信じますわ。後で必ず、教えてくださいませ」
「わかった」
スカートの端を摘み優雅に一礼をしてから去る妹の目には、涙が溜まっていた
泣き叫びたいのを我慢して気丈に振るう姿に我が妹ながら賢く美しく育ったものだと、嬉しくなる
きっとリグやアデリーナがいなかったのなら俺もここまで、頑張ることができなかったはずだ
敬愛していた父の前で、みっともなく取り乱して…いたはず
今でもそうなのだから……
「……父上。どうぞ、ゆっくりお休みください。この国のことは俺に任せて…リグと、アデリーナと心強い家臣と共に、頑張りますから……」
上から握った手は固く冷たい
五分ほど目を瞑り祈りを捧げた後、一つ息を吐き……振り返ることもせずに部屋から出て行った
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