三章 屍の楽園と魂者___別れ道

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悪夢の少年は椅子に深く座り込んで、そして動かなくなる その様子に何も反応を示さない所を見ると、いつも通りのことなんだろう 案内を命じられていたスパンクルが俺たちの方を見て、歩いてきた方とは反対側に歩き始めた 風もないのに、花は揺れている 「あー、コッチ?」 「適当でもわかるものなのか?」 「おうヨ人間。何となくそんなきがスンダ。案内もあるしナー」 軽い足取りに長い髪が揺れている しばらく無言で歩いていくと花畑の途中からうっすらと道が見え始めていた 一緒にまた、石像も姿を見せはじめて…声が、聞こえている 囁くような声 近くに行かないと聞きとれないような声は重なり、低い唸り声になっていた あっちへこっちへと視線を彷徨かせるスパンクルは、その声を聞きながら頷いたりを繰り返している 彼には、意味がわかるんだろう 「(このあと、どうするんだろう。俺は)」 歩く後ろ姿 ー番前のスパンクルに続くように魔女の二人がこの、不気味な大地の事を聞いている リグレアは三人の事を見ている 地上へ戻った後、俺が帰る場所はない はっきり見た訳では無いけど、きっともう異形と魔獣に踏み荒らされているだろう 俺が来る前に朽ち果てかけていた建物は、形だけでも残っていればそれでいい だから、また…彷徨わなければ行けないのかと思うと胸がもやもやした 胸の当たりを手で押えて俯く 今が、いい 人と話せた 人と一緒に、ちゃんと俺の方を見て、笑みを浮かべてーー ……こうしたいと言う心が少しずつ、大きくなる 出来れば、まだ続けばいいとも 「ーー?なんでそんなに悲しそうな顔を、しているのか聞いてもいい?」 「スノア」 「!!」 肩を叩かれ、耳元で名前を呼ばれて顔を上げる いつの間にか、隣にいた 三人は変わらずに前で話しているけれども…と隣に並んだリグレアを見ると、楽しそうに目を細めていた 「あとで、聞くから。まずは落ち着くまで一緒に行こう」 「……どうして」 何を聞くのかも分からない だらりと降ろしていた手を布越しに掴まれて、いつかの日に与えられた温かな温度を思い出していた 思えば、一緒に過ごしていた時から目の前の男は何かと触れてきていた気がする 今は首輪に縛られることも、リンクドールの王族という名に不自由ない立場にいることだって知っている リグレアは返事を返すようにもう一度ぎゅっと手を握ると前を見て歩きはじめた 歩みを止めていたから随分先に三人の姿が見えていて、でも気がついていないようで 「(……安心、する?)」 自分の心がいまいち読めない 俺は、握られていない方の手で胸元を握りしめることしかできなかった 「こっから先に、明かりの落ちる場所があるって言ってたカラ、そっから登れよナー。あ!デモ勘違いすんじゃねえゾッ!入り口と出口は違ーーウ!」 「でも、外に出られるのよね?なら構わないわ」 「外へ出たらどうとでもなるの。案内感謝する」 「いーーっテ!ソレもコレもご主人が望んだことなんだからナ!……ナァ、外の世界は明るいカ?いろんな香りトカ、美味しい物トカ、あるのカ?」 道が途切れて暗い森のような木々の前で、歩くのをやめたスパンクルが言った 俺は何も答えない、彼は知らない ただ、魔女だけがその問いに答えた 「あらぁ、知ってどうするというの?貴方は上へは行けない体なのでしょう?なら、知らない方が身のためよ。それに…いえ、なんでもないわ」 「ちェ、知りたかったノニ。ご主人ってばズルいんだ!自分は夢と記憶で知れるノニ俺にちーーーっともクレナイんだもんなぁ」 スパンクルは笑う 「でもまあイイや。ご主人は寂しがりダカラナー。魔女と人間、また遊びに来いヨナ!」
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