三章 屍の楽園と魂者___別れ道

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暗いの森の中を歩く 落ちている葉も何もない場所は時折ずっ…ずっ…と何かが這いずるような音が聞こえてきて、ある意味では嗅ぎ慣れた異臭が残り香として漂っている 異形が、いる けれども地上に出ているものとは違い、近くを通っても襲い掛かることもなかった 「…あそこね」 「上から光が落ちている…木、か?あれを登るのか?」 「違うと思う。ほら、穴がある」 自然に生えたものではない、と思う 下で見た木はとても大きく高かったのに根本は綺麗に根を突き出して空洞を作っていた ランフィが覗き込んで、隣からマティーアも覗いた 「これ繋がっている。行こうランフィ」 「手を離さないでね?…我が君と、第二王子?貴方たちも逸れないように………しているわね。ならいいわ。どこに落ちるか分からないから」 ランフィに言われて、ずっとリグレアに手を繋がれていたことに気がついた わ、忘れていた 完全に お先に行くからお城で合流と言ったのを最後に、二人は深い穴のを落ちていく 「私たちも行こう。いくら異形が襲ってこないとはいえ、危険なことに変わりはない」 「……」 後ろを振り返る 暗いまま、日の光すらない薄闇の奥には花畑がまだ広がっているんだと思う 木の下に開いている穴は深くどこへ通じているのかは分からない 覚悟を決めたように、頷いた 「……っ!!っう」 「…起きたか?」 痛い…体の節々が熱を持ったように痛む 忘れていたことだけれど、俺の傷はまだ治っていなくて服の下は丁寧に巻かれた布に包まれている めくった中の白は赤く滲んでいた 治りが人間よりは早いとはいえ、風が通るほどの穴はまだ時間がかかりそう… 触れた感触からも肉が戻っていないのがわかる 「無闇に触らない方がいい。動かすと、酷くなる」 「ん……。ここ、は」 そっと、負担をかけないようにして体を起こし、辺りを見渡す あの暗い森ではなくどこか温かみのある木の家の中 寝具一つ、小さな机が一つ、椅子一つ 外からは人の声のようなものも聞こえている 本当にここは、どこだろう 「アレノア王国の西の村のようだ。私も聞いたから本当かどうかは分からないが、まっすぐ帰るとなると…馬車を経由して四日ぐらいか。この村に来るのは明後日らしいから、それまでに歩けるぐらいまで回復はしそうか?」 「…多分」 アレノア王国…確か、リンクドールの隣国で、ちょうどヴァーレンハイドの反対側に位置する場所 流石に、この距離を魔法で移動するのは無理だ 二回に分ければできるとは思うけれどもそれは一人の話 二人となるとリグレアが言った四日を素直に進んだ方が早く、負担もなく進めるんだろう 「他は大丈夫か?…あの穴を落ちた後、木の上に出たんだ。高い場所から落ちた。スノアは怪我をしていただろう。悪い、できるだけ庇ったつもりだったんだが」 「庇った?」 リグレアに言われてよく見ると、あちこちに擦り傷やあざがあるのが見える 思わず手をやると、ざらりとした瘡蓋に触れた 「これぐらいであれば放っておけば治る。それよりも…そろそろ交換しないといけない」 「何を……っ?え、」 二つの手が伸びてきて、俺がめくった服の隙間から手を入れられ、血の滲んだ布…包帯を留めた金具を外して手早く取られる 軽く濡れた布で血を拭ってからまた新しい包帯を巻かれた 俺も途中からなにをしたいのかがわかったから、力を抜いていたけど… 簡素な服を身につけているリグレアの頭が近くあって、いい香りがしていた 「…よし、もういいだろう」 「……う」 「うん?」 「…あり、がとう」 「…!気にしないでほしい。私がやりたくてやっていることで、それに楽しいんだ。スノアと、話すことができるのが。起きてからも慌ただしかっただろう?」 リグレアのその言葉に、俺は目を瞬かせた 「(たのしい?楽しい…そうか。うん、確かに…楽しい、な」 「スノアも同じなのか?」 「!!」 声に出てしまっていた まだ二日と経っていないのに沢山話しているから…思っていたことが口に出やすくなっているのかも、しれない そんな俺の様子に吹き出すように笑い始めたのを見て、またびしりと固まってしまう どうにも、慣れなかった 笑顔に声がついてくることが…あの静寂の中に、こんなに言葉を隠していたということが今になってじわりと、滲んで来ていた
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