三章 屍の楽園と魂者___別れ道

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「楽しいなら良かった。私はスノアのことが知りたいから」 「…なんでそんなに、俺に構う」 「なんで、だろう。私もこの気持ちに気がついたのはつい最近だから。時間がある今のうちに、スノアが知りたい事も、スノア自身のことも全部。二人で話したいと目論んでいる」 「……」 「今は時間があるだろう。…どうだろうか」 知りたい……それは、ただの好奇心からだろうか でも俺も、聞きたい…聞いてみたいことがいくつもある 小さな小屋で口が聞けないまま過ごした日に聞きたかったことを 「そうだな…じゃあ、お互い一つずつ、聞いていこう。ゆっくり」 「………。わかった」 リグレアは椅子、俺は傷もあるため横になりながらゆっくりと話していく まずは今の状況からで、この木の家は村の宿屋らしい 入ったことがないからこんなものなのか…って感想しか出てこないけれども リグレアはまず話をする前に、軽く自分のことについてを話した リンクドールの王族として生まれ、国を守る剣となるために鍛えてきたこと 周りの人間に傅かれる立場にありながら、常に強くなることだけを考えてきたこと 俺にはあまり、理解は出来ないけれど 俺も、話せる範囲で少しづつ話した リグレアも俺と同じことを考えていたみたいで、少しずつ眉が寄っていくのがわかった 文字で書かれた人の生活に比べるときっと、天と地ほど差があるんだろう でも、俺にとってはこれが普通だった 「自分の事で大変だったのにどうして、私を助けてくれたんだ?私は満身創痍だっただろう」 「…魔力の残滓を見つけた。人間がどうしてとも思った。首輪を付けていたから、同族に使われる奴隷かと哀れんだ。でも…体が勝手に動いた」 「そうか…」 あの時は無我夢中だった 確かに悩んだ、けれども襲いかかってくる異形に人間を連れて逃げる選択肢をしたのは紛れもなく、俺だ 「どうして、逃げなかった。俺みたいな得体の知れないモノと居て嫌だと思わなかったのか?」 「確かに…はじめに見た時はどうしようもなく嫌いになりそうだった。途中までは。今は魔女がスノアに着けた仮面の力だとわかってほっとしているぐらいだ。あとは私の考えの変化と、この状況を利用しようとしたから」 「…?」 「逃げなかったのは兄様に、『リグが拐われたり何かに巻き込まれた時は、何とか生き延びてそのまま隠れていろ』と言われていたから。スノアは追い出さなかっただろう。あと…」 一度、言葉を区切って俺の方へと手を伸ばしてくる その手は俺の顔へと伸びて赤い線の走る肌の上をそっと撫でた 「…顔が見たかったから。スノアは素顔を隠していただろう。私は、無機質な仮面の下をどうしても見たくなった」 「…意味がわからない」 別に見なくともいいと思うのだけれど そう言葉にしようとした時、リグレアの顔が近づいてきて…柔らかいものが、口に当たった 直ぐに離れていったそれを目で追う 「スノアが好きなんだ。言葉がなくても優しかった。スノアがいいと言ってくれるならば、いつかはこの先まで進みたいぐらいに」 「……は?」 好き……? 「すき」 「……そう」 「なんで俺に、言う。人間は、性の違う相手に、そういった言葉を吐くんだろう?なら俺に言う意味は無いはずだ」 「……ちょっと待ってくれ。スノア」 「その好きがどんなものかは分からないけれど、俺に言っても意味が無いんじんん……」 言葉の途中で遮るように手が当てられる 深い、ため息が聞こえた
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