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ーー薄暗い森ではなく、空の見える下で
「スノア。戻ったが…魔女の二人は?」
「もういない。王に宜しくと言っていた。…なあリグレア。邪魔じゃないのか?俺みたいな、よくわからないものを近くに置いても」
俺に居場所をくれるとは言ったけれども、俺はまだそれを信じ切れていない
人間は数が多い…その数だけ、思考がある
多くの人間に仮面をつけていた頃のような感情を向けられるのならば、俺はリグレアが何を言っても離れるだろう
だってもう、悪意のない世界を知ってしまったのだから
「…はぁ。言っておくが、わりとここで働く者達はスノアに興味津々だぞ。それに、もう許可は取ってある」
「…どういうこと?」
「私がいない間のことを聞いた。父が、亡くなったそうだ。一応私にも、継承権があったが…見ての通り時間が過ぎていて周りも何も言えなかったらしい。兄様が王になった。私は王弟と言ったところだ」
「そう…」
「兄様は私の好きなようにしろと。世継ぎならば兄様がいる。スノアが魔女達のように人と関らずに生きたいと言うのなら、前のように森に家を建てて二人で住んでもいい。だから、私の手をとってくれないだろうか」
す…、と差し出された手
剣だこのある大きな手は、いつの間にか抜かれていた身長や体の大きさに見合うような手だった
正直に、俺の感情はまだ迷っているんだと思う
心の中には一人だった俺がまだ、割れた鏡のそばで静かに座っている
けれども賑やかな中を目移りしながら過ごすのも悪くはなくて
リグレアの温度にも、数日のうちに慣れてしまって
ーーあの時、森で彼を見つけたのが俺の道だとしたら
俺は手袋の布越しにそっと、手に触れた
瞬間、椅子に座っていた体を引き揚げられて背に手が回る
肩に顔を押し付けるようにしているとわかるのは、わずかに震えていること
「まだ、迷って入るけれど、手は払いたくなかった」
「初めのうちはそれで良い」
「もしかしたら別の選択をするかもしれない。…それでも、いいか?」
「大丈夫だ。私がぐいぐい押せばなんとかなると言われた」
「っはは。……まさか、こんな事になるなんて、思ってもいなかった」
ーーきっとこれも、定められていた事なのかもしれない
じわりと目に涙が浮かぶ
それは……とても暖かな涙だった
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