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城の中にある書庫は深く、入口は二階にあるのだけれどもそこから地下まで降りる形になっている
二階にあるのは比較的閲覧頻度の高いものや娯楽小説、図鑑など
下へ降りて一階にあるのは帝王学や剣術指南などの王族の教育に使われるものと、貴族や国に関係する書物
そして地下は鍵がかけられている禁書の類や曰く付きの本、人目に触れることができないようなものが置かれていると聞きました
扉を開けて微かに香る古い紙の匂いに眉を潜めながら、入り口にいる司書に軽く会釈をしてから奥へ
わたくしが読みたい本は二階にあるはずだけれど…この書庫はよく位置が変わるから分からなくなるわ
「私が見つけて参りますので、アデリーナ様は他の面白そうな本を探してお待ちください」
「そうね…じゃあお願いするわね。これと……これを読もうかしら」
ミサを待つ間に読む本を適当に見繕ってから椅子と机のある場所へと向かうと、わたくしの前に先客がいた
珍しい…と思うのも数秒、見慣れない服装に色が抜け落ちたような白い髪を見てわたくし、ピンと来てしまいましたわ
読む傍本を積み上げている
「ちょっと隣、いいかしら?」
「……?」
他に机はあるのだけれどあまり話したことのない、リグお兄様が連れてきた人とお話しして見たいと思ってもいいはずだわ
わたくしと顔を合わせたことは初めの日だけ
彼もわたくしの顔は覚えているでしょうけれども、わたくしのことは知らないのでしょうね
「別に、構わないけど」
「そう?じゃあ失礼するわね。……わたくし、あなたと一度お話しして見たいと思っていましたの」
「え……と。…アデリーナ…さん?で合っている」
「合っていますわ。自己紹介しただけですものね。あなたは確か、スノア様。魔女の中でただ一人の王だとお聞きしましたわ。こんな所に居ていいのかとは思ってしまいますが…リグお兄様とはうまくいっておりますの?」
「うまく…?ああ、多分」
椅子を少し傾けてわたくしの方へと向けられたスノア様
髪も肌も作り物のように白く、その上を走る赤の線と、血のような目がわたくしの方を見つめました
ほんの少し、戸惑っている?
でも…服も黒いから、本当に目立つわ
「なら良かったですわ。リグお兄様、あなたといる時はとても楽しそうなんですもの。昔は表情筋が死んでいましたし何より、雰囲気が柔らかくなりましたわ」
「結構、初めから笑っていたような気がする」
「そうですの。なら一目惚れ、ですわね」
「アデリーナ様、お探しの本が見つかりました」
「そう。じゃあ行きましょうか」
「はい」
もう少し、話をしたいと思ったのだけれど…ミサは意外と早く目的の本を見つけてきたみたい
結局読むことのなかった本も二冊、一緒に持ってもらって席を立つ
「スノア様、今度お茶会にお呼びいたしますわ。是非いらしてくださいな。それではご機嫌よう」
……そういえば聞くのを忘れましたけど、リグお兄様とスノア様は今どのあたりにいるのでしょうね
部屋に戻り、続きを待っていた小説を読み終わった後、パタンと本を閉じて思う
恋愛小説のように手をつなぐ段階だったのなら面白いのですけれど…時間を考えてそれはないでしょう
閨の教育は受けているのですし、女から男に対象が変わるだけで
「ふふふ」
「アデリーナ様が楽しそうで何よりです」
「楽しいわ。本を読むことよりも。…一応、リグお兄様にはそれとなく聞いておかないと。痛いのは誰だって嫌ですものね」
わたくしの少しのお節介でいどであれば、笑って聞いてくださるはず
そうと決まれば早速支度をしなければいけないわ
持っていた本を他の本と一緒に置くと、わたくしは紙を手に机へと向かった
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