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「……自分の気持ちが、わからない?」
「疑問系ですのね」
「…いや、理解はしているはずだけれど」
「ふふ、ノアが言っているのはリグ兄様のことでしょう?隣に…そうね。誰かと親しげに話していたり、触れ合っていたりしたらどう思うか、考えてみるのが1番だと思うわ。そして同じことをリグ兄様に聞いてご覧なさいな。きっと黒い感情が湧き出すはずですわ」
「アデリーナ様、そろそろ」
「あら、もう来たの?じゃあもう行かないと。ノア?次にあった時に答えを聞かせてちょうだいね。またね」
「……ああ、また」
ふんわりと広がる裾を持ち上げて綺麗に一礼して出ていく二人の後姿を見送る
アデルの提案通りに考えしまって、俺は思わず手で口を隠していた
「今、何考えた……?」
抑えた指の間から漏れた小さな声は誰の耳にも届くことなく、消えていった
「……ア、スノア!」
「…!」
肩を揺さぶられて思考が戻ってくる
目の前にはあれだけ動いたのに汗ひとつ掻いていないリグレアが、心配そうに眉間に皺を寄せながらこちらを見ていた
手に持っていた短剣を横に下ろして、余計な考えを頭から追い出す
書庫で考えてしまったことを知らないうちに反芻していた…
今は集中しないといけないのに
「調子が悪いのか?」
「……違う。別なことを考えていた」
「ならいいが…続けられそうか?」
「…続けられる」
できるだけ頷きではなく言葉で返すのを心がけながらフードの裾を引っ張った
相変わらず目の前の男、リグレアは強い
元の体の性能の違いではないのだろうけど、一撃が重く鋭い
人間の中でも強い括りに入るであろう騎士の中でも飛び抜けて強いと思う
だからこそ、こうやって幾度となく刃を混じえていれば少しづつ短剣の扱い方が上手くなっているのは感じていた
「よぉ!やってるか?」
「何しに来たんですか、団長」
「冷やかしに」
「……」
「そんな冷たい目をするなよ。…お前さんに用があるんだが」
訓練場の脇の入り口から歩いてきた大柄な男がリグレアに話しかけたあと、俺の方に笑いかけてくる
リグレアよりもさらに大きく全身を筋肉という名の鎧で包んだような男は、濃い茶髪の下に大きな額傷をつけている
一番は、この男もリグレアと同等かそれ以上に強いと感じさせることだ
そんな男が、眉を下げながら警戒心を解くように話しかけてくるものだから、驚いた
「お前さん、まほうっていうのが使えるんだって?よく知らんが、エユが自慢してくるから気になってな。良ければリグレアと戦うついでにみせてはくれないか?」
まほう…魔法
覚えがある
あの魔女を相手に戦っていた時に見かけ、その後馬を連れてきた青年のうち一人がそう呼ばれていたはずだ
王都までの道で馬を並走させていたから記憶に新しい
あの時は俺だけではなくランフィとマティーアもいたから…人間から見れば、目を疑うようなものだったのかもしれない
「…確かに私も魔法を使う姿を何度も見たことがあるが…そうか、確かに魔法を使ったスノアとは一戦交えてみたいものだ。ただ、それとこれとは話が別だ。ここでは危ないだろう」
「…いいよ」
「スノア?」
「そうこなくっちゃなあ!楽しみにしてる。お前ら!外側に出るんだ!」
頭をぐるぐるし続ける物をどこかへやってしまうにはちょうどいいと思った
本気か?と目で訴えてくるリグレアを横に中央へと歩いていき、中心で掌を上に向けて、唱えた
『llaweuqap on aetalu cric』
森に張っていた結界と同じようなものに少し手を加えて、ちょうど内側からの力が外へと出て行かないように
まるで風の波が広がったような感覚がして、境界を肩あたりまである石の仕切りに固定した
ずっと保つわけではないから媒介の宝石もいらない
リグレアの方を見ると仕方がないと言わんばかりのため息を一つしてから、少し離れた場所まで移動して、俺に向き合ってくれた
「本当に大丈夫なのか」
「攻撃は通さない」
「そうか…加減はする」
「…出来なく、させる」
手に馴染むようになってきた短剣を握り、構え直して目を瞑った
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