番外 願いと儀式と

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今まで通りでは軽くあしらわれて終わりだからまずは、短剣を構えた状態で身体中の魔力を全身に回すように巡らせていく 大丈夫だ 魔力の動きなんて人間には見えるはずないのだから 魔法の種類は多岐にわたる 純粋に攻撃に特化したものもあればそれ以外もある 魔法薬を作るのも魔法の一種だ 『wonthgirn oitc nufydobs etavit ca』 身体能力を強制的に上げていく 一歩踏み出すと同時に次の魔言を早口で唱えながら前を見た すぐに短剣の刃とリグレアの持つ直剣が混じわる 口をとめずに、押し負けかけている手を軽く引きつつ足、手の順でさらに魔力を通していく 「っ」 『sraepskco rsse ltnuoc!』 途中から重みが変わったのがわかったのか僅かに目を見開くのが見えた 短剣を持ち替えて腕を突く、けどすぐに剣の腹で防がれる そして繰り出される蹴り 今までは上半身だけで手一杯だったけれど! 「っこれは」 「あの魔女よりは、劣る」 「それでも、怖いな!」 次々と下から伸びる無数の槍を涼しいとは言えないけど、危なげなく回避していく 回避の後に突き出た石の槍を盾にしながら立ち回るリグレアは、直ぐに魔法に適応して慣れていく 恐ろしいほどの戦闘センスの塊だ… お互い、少なくない傷が増えていく 口を休めない、目を常に動かして場所と、リグレアを追い続ける 気が付かれないうちに次の足を運ぶ場所の地面を盛り上がらせて 炎の矢を見えていないはずの後ろからとばしても直前で躱された 隠れていた石の槍を砂に変えながら切りつけ、それも全て防がれる 「っははは!」 「『worgpih…』っうぐっ」 詠唱の中断 鍔ぜりあっていた短剣にかかっていた圧が急に消え、空を切った 慣れている者ならすぐに体制を立て直して後ろに下がるなりするんだろうな… けれども少しづつ蓄積された傷の痛みに判断が遅れ、前に落とすように剣を手放してしまい、重い一撃を腹に決められた 背中を地面に強く打ち付ける 最後に首元に突きつけられた剣先に、俺はもしかしたらと思っていた考えを変えて降参を示した 「見たかあの顔。全員揃って空いた口が閉じなくなっていた。いや、ありがとう。面白いものを見せてもらった」 「…はぁ、ここではもうやりませんよ」 「でもどこかでやるんだろう?笑っていたぞ」 「それは…。そうかもしれませんね。スノア、立てるか」 首に突きつけられた剣を腰の鞘にしまったリグレアに、手を差し出されて握り返す 腕を引かれた反動で起き上がるとずきりと殴られた腹部が痛みを訴えた 気が抜けたからか周りを覆っていた結界と一緒に自分自身にかけていた魔法も霧散する 少しフラフラするな… 「(勝てるかもと、思ったけれど。魔獣や異形を相手するのとはまた、違うものなんだな…)」 異形は本能のままに動くから、直線的な攻撃が多い 最も元の基礎能力のせいで強いけれども、対処を謝らなければ戦える 魔獣は知能があるが、獣から少し良くなったようなものが多くこれも対処出来る でも人間は… 「これが、正解なんだろうな」 「?…スノア、今何か言ったか?」 「いや……あ…。今日、夜に話がしたい」 「話?わかった。では今日はこのまま帰ろう」 そんな勝手いいのかと思ったけど、別にいいぞと援護が入る 乾いた血を布で拭き取り手当をしながら、あたりを見渡すとたしかに、まだ放心状態みたいな人が何人もこちらを見ていた 心なしか目が輝いているような…? 荒らしてしまった床やもろもろを元通りにしているとリグレアが肩に手を置いてくる 「やはり、魔法というものは不思議なものだな。面白い」 「あの時も面白かったのか」 「いや、スノアが血だらけだったのを見てそれどころじゃなかった」 「そっ……」 そう、だったのか…
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