箱の底に残る物

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「家庭科のグループ決め。今となっちゃあ、ホンマにこんまい理由で笑けてしょうがないんじゃけど、あの時、みんなはこだまがいう“ 空気 ” の中で何を思っとったか知っとるか?」 吸入薬をリズムよく上に投げては取って、投げては取ってを繰り返しながら、ハルちゃんが言った。 こだまは、それに「わからない」と答えた。 「クラスのみんなが、わしに “ ごめんな ” って思ってくれとったわ」 「そ……そうだったの? 」 「あぁ。あんだけわしに突っかかって来おった拓海も、そう思ってくれとった」 「岩永くんも?」 「聞こえるっちゅうのも、時には便利じゃろ?」 驚きに目を丸くするこだまへ向けて、ハルちゃんは、そう言って笑った。 「……でも、確かにあの瞬間にも、そういう “ 空気 ” があったのに……」 「言ったじゃろ? 目に見えんけぇ、怖いんよ。でも、実際には、みんな胸ん中は同じ気持ちじゃった。じゃけぇ、誰かが、勇気を出さんといけん。そういう空気が怖いんなら、誰かが窓を開けんにゃいけんのよ。……あん時わしに、ごめん言うてくれたメグとアコとか。わしに、面と向かって、ありがとう言うて、大事なことを教えてくれた、こだまみたいに。……それから……」 「……自分で動き出した、ハルちゃんみたいに? 」 「まぁ、それもあるかも知れんのう」 こだまが言うと、ハルちゃんは照れ笑いを浮かべながら右の頬を掻いた。 彼の頬には、大きな絆創膏が貼ってある。 こだまは、そのことに、今初めて気が付いた。 「ハルちゃん、これ、どうしたの? 」 こだまが頬に触れながら尋ねると、ハルちゃんはさっきよりもっと照れくさそうに笑った。 「これか? う~ん、拓海に窓をぶち割られたって感じかのう? ちぃと、青春したわ」
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