箱の底に残る物

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「いけん、発作が! ……こだま、保健室行くぞ! 」 ハルちゃんは、こだまの腕を肩に回して立ち上がった。無言で立ち尽くすクラスメイトたちの間を割くように、出口に向かって突き進む。 ドアに手を掛けたとき、岩永くんが不意に口を開いた。 「ハル……お前は知っとったんか?」 「……知っとったら、なんじゃ? 」 ハルちゃんの大きな目が、物凄い眼力で以て岩永くんに注がれた。 「知っとったらなんじゃ!! たまたま、わしにそれを知る能力(チカラ)があったけんって、わしにはお前らに話さんにゃいけん義務でもあったんか!? 第一、わしから聞いたけんって、お前らこだまの何を知るつもりなんじゃ! もしこいつを値踏みする材料にしようって言うんなら、そんなこと、わしが絶対に許さんけぇのっ! 」 初めて感情を剥き出しにしたハルちゃんを前に、岩永くんも、それを囲む周りのみんなも、ただ押し黙って固唾を飲んだ。 ハルちゃんが、みんなの前で、自分の口で能力(チカラ)の存在を認めてしまった。 ──あたしのせいだ……。 せっかく少しずつ、みんなが持つハルちゃんへの警戒が、解けてきていたところだったのに……。 「……ごめんね……ハルちゃん……」 いたたまれなくて、こだまはハルちゃんの腕を振り払って走り出した。 「こだまっ!」 ハルちゃんが呼びかけても、 「ハルっ!」 追いかけようとしたハルちゃんを呼び止めた岩永くんの声が気になっても、こだまはその足を決して止めなかった。
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