箱の底に残る物

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シーン……と、室内を静寂が満たした。 こだまの心臓の鼓動が、否応なしに速くなり、それに比例するように喉も狭くなっていく。 ──きっとみんな、あたしを疑っている。 みんなの無言が、疑いを刃に変えて、自分に斬りかかっているような気がした。 『こだまちゃんも、いじめに加わってたのかな? 』 口元を両手で押さえて、驚いた顔をしているアコちゃんと、その横でそんな彼女と顔を見合わせているメグちゃんから、そんな声が聞こえた気がする。 彼女たちからだけじゃない。 視聴覚室のあちこちから、自分を責める声が聞こえてくる。 それはまるで、いくつものステレオから漏れてくる、多重音声のように。 『クラスメイトが死んだんじゃいうのに、よう平然としておれたのぅ』 横目でこちらを窺っている、岩永くんの声。 『転校して来たのって、要するに逃げてきたんじゃな……』 ハルちゃんの後ろで、気まずそうに俯いている岡田くんの声。 『……人殺し』 震える身体を抱き締めるように腕を組みながら、自分に背を向けている沙由美ちゃんの声。 『……人殺し……人殺し……人殺し……』 どんどん、誰の声かも分からないくらい、声が増えていく。 「ち……違う……そんなんじゃない……」 こだまは両耳を押さえて床にうずくまった。 「こだま、聞くな! 」 駆け寄ったハルちゃんが、こだまの肩を抱き締めた。 彼の言動に、こだまの心は絶望に大きく傾いた。 ──あぁ、やっぱり……。 ハルちゃんが「聞くな」と言った。 やっぱりこれは、みんなの心の声なんだ。 「違う! そうじゃない! 惑わされたらいけんっ!」 ハルちゃんは、必死にそう言って励ましてくれるけれど、今の自分の心を読んでいる彼の言葉には、別の説得力の方が圧倒的に働いている。 ──やっぱり、ハルちゃんにはまだあの能力(チカラ)が残ってるんだ……。 こだまの喉が、ゼイゼイ鳴り出した。
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