箱の底に残る物

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「……ハル……ちゃん? 」 「おう、わしじゃ。ハルちゃんじゃ!」 夢じゃないだろうか? こだまは、ゆっくりとドアに手を触れた。 この向こう側に、ハルちゃんがいるなんて、信じられない。 「……本当に、ハルちゃんなの? 」 「当たり前じゃろ? 」 「……どうして、ここにいるの? 」 「どうしてって……」 ドアの向こうで、衣擦れの音がした。 きっと、ハルちゃんは今、照れくさそうに後ろ頭を掻いたに違いない。 「えーっと……実は、あれから毎日放課後部活サボって寄らせてもらいよったんよ。多分誰が何を言うても出てこんと思うって、アビーさんも、こだまの母さんもお手上げみたいじゃったけぇ、ほいじゃったら、こだまの方から呼んでくれるまで待たせて下さいって、わしから頼んだんよ。そしたら、こだまの母さんがここに通してくれた」 「そんな……」 ハルちゃんが、ずっとそばにいてくれたなんて。 その事実に、涙が勝手に溢れて止まらない。 「五日間も、よぉ苦しんだのう。わしんこと、呼んでくれてありがとうな。絶対頼ってくれるって、信じて待っとってホンマに良かったわ」 「……ハルちゃん……」 「出てこい、こだま。 もう十分じゃろ? お前はもう十分苦しんだんじゃけん、これ以上自分を責めるのはやめんさいや。 お前が自分を責めて泣きよる声なんて、ホンマに聞くに耐えん……。出てきてくれたら、わしが責任持ってお前の力になる。もし、お前がまだ怖くてたまらんのじゃったら、震えが止まるまで、いつまででも隣におる。もし、あともう少し勇気が足らん言うんじゃったら、わしがお前の足りん分になるけぇ……。じゃけぇ、わしを信じて、出てきてくれ……」 ハルちゃんの声が、涙に濡れている。 それが、何よりもこだまの背中を押した。 ──あたしのせいで、ハルちゃんが泣いてる。 ゆっくりとドアノブに手を掛けて、ドアを開ける。 その隙間から、すかさず手を伸ばしたハルちゃんが、こだまの手を掴んだ。 「……ごめんな。ちょっと聞こえてしもうた……」 こだまを抱きしめたハルちゃんは、泣きながら、困ったように笑っていた。
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