箱の底に残る物

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「ハルちゃん……」 伝えたいことが、たくさんある。 見捨てないでいてくれて。 そばに居てくれて。 助けてくれて。 勇気をくれて。 待っていてくれて。 本当は、まだまだ沢山ある。 けれど、今のこだまの心の中に溢れる感情全てに共通するのは。 「……ありがとう」 これしかない。 たった五文字では伝えきれない全ての想いをその一言に乗せて、ハルちゃんを強く抱きしめたら、彼も自分を抱きしめるその腕に力を込めて 「いいえのう」 と、笑ってくれた。 こだまの心が、フワッと軽くなる。 まるで、羽が生えたみたいだ。 ──あぁ……大好き。本当に、大好き。 今、どうしようもなくハルちゃんが大好きだ。 「いいえのう」って、笑ってくれるのが大好きだ。 とても優しいその言葉の響き。 それをハルちゃんが笑いながら言ってくれると、まるで全部を受け止めて貰えたような気持ちになる。 「ハルちゃん、大好き」 「うん。わしも」 「ありがとう」 「いいえのう」 二人の照れ笑いを、西陽が赤く照らし出す。 部屋の中が、優しい夕焼け色に染まった。 ──ハルちゃんは、もう知ってるだろうけど……。 「“神さん” に話したこと、ハルちゃんにも聞いて欲しいの……。あたしのパンドラの箱……一緒に、開けてくれる? 」 「もちろん」 ハルちゃんが、深く頷いた。 こだまは、机の一番下からスマホを取り出すと、ハルちゃんを部屋の中に入れた。
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