箱の底に残る物

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「ちょっと待ってね……」 久しぶりに手にしたスマホは、充電が切れていた。 充電ケーブルを繋いでコンセントに差し込む。 起動するまでが、やけに長く感じた。 ハルちゃんはその間、ずっと窓の外を眺めていた。 「……ハルちゃん」 こだまは、トークアプリを起動したスマホを差し出した。ハルちゃんは、小さく頷いてからそれを受け取ると、こだまと一緒に、ピンクのラグにベッドを背もたれにして座った。 「これが、あたしのパンドラの箱……。神さんにも話してない、あたしの秘密……」 ハルちゃんは、右手で画面をスクロールさせながら、左手でこだまの手を強く握った。 スマホの画面に釘付けになっているハルちゃんの顔は、すぐに勃然(ぼつぜん)たるものになった。 「なんなんじゃ……コイツら……」 元クラスメイトたちから突きつけられた、見るのも恐ろしい、刃物のような言葉の数々。 それらを、次々と画面上部に送りながら呟かれたハルちゃんの声が、激昴に震えている。 「……最初にいじめられてたのは、あたしだったの……。でも、死んじゃったのはリッコちゃんだった……。ずっと、あたしのせいで、リッコちゃんは自殺したんだって思ってた……。だから、パパから事故だったって知らされた時、あたし……ちょっとホッとしちゃったの……。でもね、リッコちゃんが最後にくれた “ ごめんね ” ってメッセージと、リッコちゃんの最後の行動がどうしても胸の奥深いところで引っかかって……やっぱりあたしのせいだったんじゃないかなって……。リッコちゃんのご両親も、事実を求めて苦しんでる。だけど、何をどこまで話せばいいかもわからないし、第一、あたしにそんなことが出来るかもわからない……。……もう、何が正しいのかも分からないの……」 スマホの画面が、こだまの涙で滲んだ。 頭も、心もぐちゃぐちゃだ。 「……こんな重たいもん、今までよう一人で抱え込んどったのう……」 スマホをラグの上に置いて、ハルちゃんはこだまを抱き締めた。 背中を撫でてくれる手の温かさに、涙が止まらない。 「辛いかも知れんけど、もう一回最初からこだまの身に起きたこと、わしに教えてくれんか? 」 「……うん」 「大丈夫。全部出し切った後の箱の底に最後に残るんは、希望なんじゃけん」 「…………うん」 ハルちゃんの言葉に背中を押されて、こだまは何度となくしゃくり上げながら、痛みの記憶と、そして、リッコちゃんの最期と、リッコちゃんのご両親が望んでいることの全てをハルちゃんに話した。
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