箱の底に残る物

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「そんなことがあったんだ……」 「男は単純じゃけぇのう。お互い一発殴り合ったら、そんだけで即解決よぉ!」 居なくなったあとに、そんなことがあったなんて……。自分の件が、彼らの殴り合いにまで発展する引き金になってしまったことを思うと、どうしようもなく申し訳なく思った。けれど、清々しく笑うハルちゃんを見ていたら複雑な心境だ。 「……ごめんね、ハルちゃん」 それでも謝るべきだと思って、こだまはハルちゃんの頬を擦りながら頭を下げた。 ハルちゃんは、ニッコリ笑って首を振った。 「謝らんでえぇよ。むしろ、感謝しとるくらいじゃし。前は親友じゃったのに、いらんこと聞こえるけぇって、勝手に拓海のこと信じられんようになった、わしが悪かったんじゃし。あいつも頑固もんじゃけぇ、こんなことでもないと、本心を言えん奴なんよ。じゃけぇ、こだまのおかげでわしも、あいつも、やっと仲直りできたんよ」 「あたしのおかげなんて、そんなことないよ……」 「いんや。全部こだまのおかげじゃ。 人を信じるっちゅう大切なことを思い出させてくれたのも、そのおかげで厄介じゃった能力(チカラ)を跳ね除けることが出来たのも、全部な。それに、あいつらはもともと、世話焼きのお人好しばっかしじゃったってことも、思い出したわ! 」 嬉しそうに笑うハルちゃんの口元から、白い歯が零れた。 お人好しと聞いて、さっきハルちゃんから聞いた岩永くんの言葉が、こだまの頭をよぎる。 「……本当に、岩永くん……そんなこと言ってくれたの?」 こだまには、(いささ)か信じられなかった。 岩永くんの言葉に、クラスのみんなが頷いてくれたというのも、信じられない。 「あの時……確かにあたし、みんなの声が聞こえたもの……」 あの場から走り去る瞬間に聞こえたあの声は、間違いなくみんなの声だったと、今もそれを疑っていない。
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