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沙由美ちゃんは、遠慮をしない。
それが、彼女がリーダーである所以なのだとこだまは思っている。
肩につく髪の毛は、耳より下で結ぶのが校則なのに、担任の三木田先生に何度注意されても、平気で髪を下ろしていたり、頭のてっぺんでお団子にしていたりもする。
そういう怖いもの知らずなところもあるし、どこか垢抜けていて、大人っぽい沙由美ちゃんは、いつも大きな目で、真っ直ぐに見つめながら話しかけてくる。
要するに、気が強い女の子。
沙由美ちゃんには、男子も女子も頭が上がらないみたいだった。
けれど、そんな彼女に一人だけ対抗できる人がいる。
「ほいじゃったら、二人と三人に別れてから、あとは男子と組んだらいいんじゃない? 」
そう言って、こだまの横で、丸い顔にぽっくりとえくぼを浮かべながら笑う、学級委員のメグちゃんだ。
メグちゃんは、沙由美ちゃんとはまた違う大人っぽさがある。
沙由美ちゃんの言葉にも左右されない芯の強さと、余裕を感じさせる凄さがあるのだ。
この間、クラス一お調子者の大竹くんが、学校の裏山で拾ったという大人の雑誌を持ってきたときも、彼女だけはあからさまに頬を染めず、「ホンマに男子って、子供なんじゃけん」と笑っていた。
そんなメグちゃんは校則に習って、いつも真っ黒な髪を真ん丸な目がきちんと見える高さに綺麗に切り揃えて、胸まである長い髪を三つ編みに結んでいる。子供っぽい髪型も、メグちゃんがしていると清楚なお姉さんという雰囲気が滲み出ていて、こだまも、もう少し髪が伸びたら三つ編みにしたいと思っていた。
つまり、メグちゃんはこだまの憧れなのだ。
だから、メグちゃんが「なぁ、こだまちゃんもその方が気楽でえぇじゃろ?」と言ってくれたから、少し躊躇いながらも大きく頷いた。
『気楽』という言葉から、メグちゃんの気遣いが伝わってくるようで、嬉しかった。
「えーっ!? 男子と一緒に!? なぁメグちゃん、保育園に行くんよ? 園児の世話もせんにゃいけんのんに、その上男子の世話までとか、ホンマにブチたいぎい(凄く面倒臭い)んじゃけどー!! 」
こだまが頷くと同時に、やっぱりすぐに沙由美ちゃんが猫目を釣り上げて噛み付いてきた。
その剣幕と声量に、思わず胸をギュッと絞られるような心地がしたけれど、
「はぁ!? 中嶋お前大概にせぇよっ!!」
と、男子のリーダー兼もう一人の学級委員・岩永くんがこちらのテーブルを睨み付けて来たので、そっちの方が怖くなった。
岩永くんは、何でもクラスで一番だ。
少なくとも、この二週間余りを共に過ごしたこだまにはそう見える。
一番背が高くて、一番足が早くて、一番頭が良くて、そして多分、一番モテる。
「ほ……ホンマのこと言うただけじゃしっ! 」
まるで女王様みたいな沙由美ちゃんだって、岩永くんの前では頬を真っ赤にして、目を逸らして喋ることが多いから、多分、好きなんだろうなぁと、こだまは思っている。
沙由美ちゃんだけじゃない。
沙由美ちゃんの右斜め前で、「ほうよ! あんたらの面倒まで見てやれんのじゃけんっ!」と、岩永くんへ向けてあっかんべーしている七海ちゃんも、目の前の席でチラチラと横目で彼を見ては、ふわふわくせっ毛の髪に指を絡ませているアコちゃんも、たぶん岩永くんのことが好きなんだろうなと、こだまは思っている。
だから、岩永くんだけは、絶対に近付かないようにしようと決めていた。
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