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鬼涙島の神さん
地元の中学校へ進学して、ようやく二ヶ月が過ぎた頃、こだまは突然学校へ行けなくなってしまった。
パパとママへの理由にした、持病の喘息が悪化していたのは確かだったけれど、成長と共に落ち着きを見せていたはずの喘息を悪化させるに至った原因については 、ついぞ話すことはなかった。
ストレスがあったのだ。それも、たった十三歳の少女が一人で抱え込むには膨大過ぎるほどのストレスが。
それは、こだまに一切の逃げ場を与えなかった。
授業中でも、昼休みや放課後でも、自宅での食事中でも、時には夜間の睡眠中であっても、無機質な機械音と共に容赦なく送り込まれてきた。
こだまは元来口下手で、自分の気持ちを他人に吐露することが怖くてたまらない性分だ。
そんな彼女も、小学校時代はクラスメイトの話にも『そうだね』『私もそう思う』と、協調を示すことでやり過ごすことができていた。
共感。すなわちそれは、こだまにとって魔法の言葉だった。
しかし、その魔法は中学に入ってからは全く効果を示さなかった。
『会話』でのそれは、少しは有効だったのかも知れない。しかし、中学校ではみんなスマートフォンを持っていた。
無論、こだまも。
『文字』でのやりとりが、どんどんこだまを孤立化させていった。
魔法の言葉を使おうものなら、『こだま返し』と悪態をつかれ、いつの間にかクラスのグループトーク画面は、こだまの悪口で埋め尽くされていった。
文字だけのやりとりだと、人はどこまでも残酷だった。『どうせ顔は見えないし』そんな甘えから、『そんなつもり』は無くても、どんどん加害者へと変貌を遂げていく。
なによりその事が、こだまにとってのストレスだった。
いじめを受けていたことではない。
罪悪感の欠けらも無い辛辣な言葉たちが、どれだけ心を抉っていくか、気の休まる暇も与えないあの苦痛と恐怖を、誰よりも分かっていたはずなのに……。
悔やまれるのは、『やらなきゃ、やられる』と言い訳しながら、加害者になってしまっていたこと。それが何よりもこだまを苦しめた。
パパやママに、理由など言えるはずもなかった。
自分のせいで、リッコちゃんが死んでしまったのだから。
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